(279)小麦に「敏」な国々 世界を駆け巡る小麦【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2022年4月22日
世の中ではロシア・ウクライナ戦争の影響で同国の小麦をめぐる状況が色々と話題になっています。外電によると既に60隻近くの船舶(穀物・油糧種子で125万トン)が荷揚げされずに停滞…などのニュースも出ているようです。一方、こうした動きの裏で従来とは異なる「敏」な動きが出ています…。
日本は穀物に関する限り「一方通行」が多い。それも「輸入」だけである。国際情勢が頻繁に変わる状況になると、港湾施設も双方向の仕組みが必要になる。そういえば数年前にも「いざ輸出!」という段階でのドタバタがあった記憶がある。
ところで、今回のロシア・ウクライナ戦争を穀物取引における双方向性という視点で見ると、各国のしたたかな動きが見える。
第1に、かなり長い間、日本の輸入小麦は米国、カナダ、豪州が中心であったため、インドの小麦というと「?」となる人がいるかもしれない。しかし、世界の小麦生産国・地域を並べてみればわかるとおり、インドはEU(1億3,842万トン)、中国(1億3,695万トン)に次ぐ小麦生産量世界第3位(1億959万トン)の小麦生産大国である。インドの次にロシア(7,516万トン)、米国(4,479万トン)、オーストラリア(3,630万トン)、ウクライナ(3,300万トン)と続く。
インド産小麦にそれほど馴染みがない理由は、同国の国内需要がしっかりしており、輸出に回る量が限られていたからである。実際、米国農務省4月の輸出見通しで過去5年間の小麦輸出数量を見ると、52万トン、49万トン、60万トン、360万トンときて、何と2021/22年度は1,000万トンという数字が出ている。
簡単に言えば、約1億トンの小麦を生産し、ほぼそれに等しい国内需要が存在していたのが近年のインドだが、今回の国際情勢急変により、近隣のバングラデシュや中東の国々に小麦を輸出し始め、アフリカ向け輸出も動き始めているようだ。もちろん年間小麦輸出数量1,000万トンとなれば史上初である。
第2に、南米アルゼンチンとブラジルの動きである。アルゼンチンは、小麦生産量2,100万トンに対し、今シーズンは1,500万トンの輸出が見込まれている。昨年の輸出は1,000万トンを割り込んでいたことを思えば、再びカナダと同水準の輸出大国となる。
米国農務省によれば、アルゼンチン産小麦の行先は隣国ブラジルとチリ向け以外に、アジアではインドネシア、そしてアフリカではアルジェリア、モロッコ、ケニア、ナイジェリア、といった輸出先を想定している。世界地図(というより本当は地球儀)と相対し、アルゼンチンからどのルートを通って小麦が動くのが最短かを確認して見ると南米のユニークさがわかる。モロッコやアルジェリアなどへは大西洋を北上するだけで到達する。ナイジェリアは同じ大西洋でもさらに近い。
興味深いのはブラジルである。ブラジルは基本的に小麦の純輸入国である。今でも単年度の数字で見れば国内需要1,180万トンに対し、生産量770万トンのため、輸出はあっても調整用の数十万トンでしかなかった。
ところが今年はどうも250万トン水準のブラジル産小麦が世界市場に出回りそうである。その背景はもちろん、ロシア・ウクライナ戦争による穀物の国際取引価格の上昇である。仕向先はサウジ・アラビア、インドネシア、パキスタン、トルコ、モロッコなどの国々のようだ。例えば、モロッコにとってみれば、クリミア半島から黒海、地中海を経て輸入するのもブラジルから一直線で輸入するのも多少の距離の違いでしかない。
なお、日本人にとって忘れがちだが南米両国から見て、タイミング次第で有力顧客になり得るアジアがインドネシアである。喜望峰、そして南回帰線を超えればあとはインド洋を横切るだけであり、そこはユーラシア大陸中央部の戦火とは無縁の領域だからである。
* *
「小麦が世界を駆け巡る...」。そういえば、大昔、米国による対ソ穀物禁輸というのがありましたが、その時も南米ルートが抜け穴でした。「地球は丸い」という事ですね。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日