【やさしい経済の話】円安ってなんだろう(上)「実質実効レート」が参考に 浅野純次・元東洋経済新報社社長2022年6月28日
資源の多くを輸入に頼る日本にとって農業と経済問題は切り離せない。そこで経済情勢に詳しい、元東洋経済新報社社長で石橋湛山記念財団評議員の浅野純次氏に「やさしい経済の話」として、今の円安を問答形式で解説してもらった。
円安が一気に進み農家の主婦、里花(りか)さんもなんとなく落ち着かぬ様子です。今日も、従兄でジャーナリストの大地さんがやってきたのをいい機会とばかり質問攻めにしています。
里花 大ちゃん、お久しぶり。相変わらず忙しそうね。新聞を見ると円急落だとか値上げで家計がピンチだとか、円安の話で持ち切りだけど、昔は円高で大変だと言っていたはずじゃない。円高と円安と、ほんとはどっちが望ましいのかしら。
大地 そうだね。円高でも円安でも、それで潤う側は黙っていて、大変な側が声高に言う傾向があるからね。マスコミが大変なほうを大きく取り上げがちなのはいつものことだ。
里花 今日も隣の奥さんと「1ドル120円だったのが135円になったのに円安というのはなぜ?」という話になったのよ。
大地 それには外国為替の仕組みから話したほうがいいかな。例えば米ドルと円を交換するレートのことを米ドル/円相場というんだけれど、ドル円では1ドルに対して円が130円というのが普通で、1円が0・8セントとはほとんど言わない。これは国際的な約束事なんだ。
それで円安だけど、1ドル100円の時には国際市場で100ドルする品を1万円で買えたのが、円安が進んで1ドル200円まで暴落したとすると、暴落率(2分の1)の逆数(2倍)の2万円も出さないと買えなくなる。つまり他の通貨に対し円の価値が下がっている状況のことを円安と呼ぶわけだね。
円がほとんどの通貨に対して高いときは「円の独歩高」というんだ。安ければ「米ドル独歩安」などという。
里花 円安ということは、ドル高ということでもあるわけ?
大地 ドル円ではそのとおり。ただし円安というとドルに対していうことが多いけれど、ドルに対して円安でも、例えば韓国のウオンに対しては円高ということもある。この場合はウオンがドルに対して円以上に安くなっているわけだね。
里花 ということは、ドルとの関係だけ見ていたのではまずい場合があるということ?
大地 里花ちゃん、なかなか鋭いね。まさにそうなんだよ。日本はドルだけで貿易しているわけではないから、ほかの通貨との関係も大事だ。中東から輸入する原油は米ドル建てだけれど、フランスから輸入するワインはユーロ建てが多い。
それと日本の輸出入だけではなくて、中国や韓国が輸出するときには中国元や韓国ウオンの水準が問題になるので、それと円との関係をしっかり見る必要がある。円が元やウオンに対して高くなっていると、中国や韓国の輸出競争力は高まることになるからね。
里花 いちいち各国通貨との比較をするのも面倒な話ね。
大地 確かに。その意味では「実質実効レート」というのが便利かもしれない。ちょっと難しそうだけれど、まず円の「実効レート」から説明しようか。これは日本の貿易相手国全部の為替レートを貿易額でウェイト付けして計算したものをいうんだ。
それから「実質」というのは各国の物価変動を勘案したうえでの為替レートということになる。物価は為替にとってとても大事なので、あとで説明するかもしれない。要するに日本の貿易実態と円の実質の購買力を両方加味した為替レートということなるから、里花ちゃんの疑問にはぴったりかもしれないね。
里花 あまり新聞では見かけないようだけど。
大地 長期的あるいは構造的にみた円の位置という点では、実質実効レートのほうが名目的な対ドルレートなどより円の実態が表れていると思うけど、新聞記者の関心は確かに薄いかもしれない。でも日銀が毎月、発表しているのでネットでもすぐ見られるよ。
里花 円安というのは、具体的にどういうときのことを言っているのかしら。
大地 いや、それがいちばん困る質問だね。対米ドルでいうと、100円だった円が130円になれば円安だけど、それなら170円を付けた後また130円に戻ったらどうなのか。今度は円高だというには抵抗があるかもね。でも昔、円が200円台から130円まで急激に上がったときは、世間は円高だと大騒ぎになったんだよ。
里花 同じ130円で?
大地 そう、円高、円安というのは方向と水準と両方の意味があって、専門家も世間もその辺を適当に使い分けているといってもいい。「円安方向」「円安水準」と区別すればいいんだけれど、大抵は「円安」で済ましてしまっているね。厳密には円安、円高という言葉の定義はないと言ってもいいかもしれないんだ。ま、そこまでいうとアマノジャク扱いされてしまうけれど。
里花 日米金利差の拡大が円安の背景にあるというのは?
大地 為替レートを決めるのは短期的には当事国の金利の差なんだね。日銀はゼロ金利政策を続けているのに対して、米国、EUなど主要先進国は今後も金利を引き上げる方向にある。
世界のマネーは金利の高い国へ向かう習性があるから、年内にまだ3回も利上げしそうな米国と、ゼロ金利の続く日本ではまだまだ円安が続くと考えるのは理にかなっているんだ。
里花 さっきの物価だけど、為替にどう影響してくるわけ? 日本はデフレ、欧米はインフレとなると、円安とばかり言っていていいのかしら。円安のおかげもあって日本の物価は世界一安いという話も聞いたわ。
大地 これも面白い問題だけど、少しのどが乾いた。コーヒーブレークというのはどうかな。物価つまり購買力平価というのも為替と密接に関連しているし、それに円安の農業や生活への影響も話さないといけないね。
浅野純次氏
浅野純次氏のやさしい経済の話は、随時、掲載します。
あさの じゅんじ 東洋経済新報社で「会社四季報」「週刊東洋経済」各編集長、論説委員などを歴任し1995年社長、2001年会長。経済倶楽部理事長を経て、現在、出版企業年金基金、全国出版協会各理事長、石橋湛山記念財団評議員などを務める。
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