【リレー談話室】数字をみるか、数字でみるか 藤井晶啓 日本協同組合連携機構〈JCA〉常務理事2022年7月9日
コロナ危機、異常気象・地震等の天災、ウクライナ等の戦災、急激な円安・物価高など想定外が続いている。PDCAは本当に回せているのだろうか。
KPIは踊る
2022年6月20日の日本農業新聞では、政府の活力創造プランで重点課題であった6次産業化の市場規模の目標10兆円が消え、実績数値も算出せず、後続目標が先進事例数に変更されたとの報道があった。
数値目標(KPI)をつくりたい側の気持ちはよくわかる。「PDCAサイクルをまわそうにも、測定できないものは管理できない。数字があれば客観的に測定できる。測定結果を公表すれば説明責任を果たすができる。限られた経営資源を配分するには、数値目標という明確な基準を採用することが平等」等、多々あるだろう。
ところが実際には、明確な基準であるはずのKPIに私たちは振り回されていないだろうか。冒頭の国家戦略やJAの事業活動でなくとも、例えば多くのJAでは目標管理制度が導入されている。職員が個人目標を定め、その進捗や達成度によって人事評価が決まる。しかし、個人目標をどう定めるかは実際には個人の自由にはならず、的確な人事評価が保証されるわけではない。目標設定を甘くすれば達成は容易に。そもそも大事なものが全て目標として測定できるわけではない。個人が働く動機は金銭だけとは限らない。より良い社会を目指すはずの協同組合なのに、個人も組織もKPIという成果の見える化が迫られる。目の前の数値に一喜一憂する前に本当は別にやるべきことがあるのではないか、と思ってしまう。
「測りすぎ」の示唆するもの
そのような考えは自分だけではないようだ。アメリカの歴史学者ジェリー・Z・ミューラー教授は著書『測りすぎ』(2019年、松本裕訳)で、数値測定に執着することで機能不全に陥る原因と数値測定の健全な使い方を示唆する。
教授は数値測定に執着すると情報が歪められると指摘する。①求められる目標や成果は複雑なのに、測ろうとするから簡単なものしか測定しない。②定量化によって本来の概念、歴史、意味などの大事な情報がはぎとられる。③データを抜いたり、不正が起こる。④厳格化しようと測定を増やすと、労力・コストがかかるばかりでメリットをすぐに上回り、士気を下げる。⑤確定された目標ばかり測定するからイノベーションを生まない。⑥短期主義が促進される―などなど。
数値測定に執着する背景には新自由主義があると、教授はプリンシパル・エージェント理論をもとに説明する。会社は株主のものであり、従業員は株主の代理人(エージェント)として、株価最大のために働く関係ととらえる考え方は、株価は分かりやすい指標であるので、数値測定への執着と結びつきやすい。そして、非営利組織に対しても、①株価に変わる実績を測定する指標を開発し、②測定実績に基づいて金銭的な報酬を与えることで人は鼓舞され、③実績指標を公開して競い合わせることがより良い結果を生むはずだ、という考え方が広がっている。
おかげで某ビジネス週刊誌が毎年のように発表する全国JAランキングに対して漠然とした嫌悪感を覚えた訳がやっと明確になった。
大切なことは目にみえない
教授は、測定そのものを否定してはいない。「適切に使用すれば測定は有効になりうる。重要な事柄の多くは標準化された測定基準では解決できないくらいの判断力と解釈力が必要となる。問題は測定ではなく、過剰な測定や不適切な測定であり、測定基準ではなく測定基準への執着だ」と指摘。
自前の情報システム部門を持ち、組合員データ活用で有名なコープみやざきの真方理事長は「数字をみるか、数字でみるか」と語る。新人は数値目標を達成しようとして数字の先にある組合員が見えない。そういう失敗経験を通じて、周りの先輩から数字を通じてコープみやざきが見ようとしているものを学ぶという。
今、JAは全国で一斉にKPI設定を進めている。自分のJAがKPIで何をみようとするのかが問われている。
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