置場1万円台をキープした新米取引会 4年産米の動向占う【熊野孝文・米マーケット情報】2022年8月23日
8月19日に全国から米穀業者が集まった新米取引会が千葉市で開催された。コロナ禍の急拡大で開催が危ぶまれていたが、広い会場で感染防止対策を徹底して開催にこぎつけた。
首都圏での新米商戦は関東の早期米が事実上スタートになっていることからこの取引会の成約価格が4年産米の動向を占う意味で全国から注目されている。取引が始まると、ふさこがね、ふさおとめといった千葉県を代表する早期米の売り物が出て、置場1万0100円(1等、税別以下同)で次々に成約した。
千葉市で開催された新米取引会の模様
例年のことながら新米取引会が開催される前から事前の情報合戦が熱を帯びる。今年の場合、国内の需給環境や政策的な要因以外に世界的な穀物相場の値上がりや肥料、原油等の急騰などの外部的な大きな要因が加わり、それらが国内のコメ相場にどう影響するのか読みづらいといった要素もあった。
すでに4年産米の事前購入制度を実施している組織からは「食品の値上がりでコメが見直されている」という情報も伝わり、こうした消費者の購買行動の変化も4年産米の価格に影響を与えるものと考えられていた。また、流通業者がコメの相場に最も影響を与えると捉えている農協系統の概算金も生産資材の値上がりから値上げするものと予想されていた。概算金については西日本の農協系統は位所修正の意味合いもあって値下げに動いたが、関東や大産地の新潟が昨年産より1俵当たり1000円の値上げを打ち出したことからこれも強材料として捉えられた。
では、実際の取引会はどうだったのか?
場立ちを3人立てて始まった取引会では、冒頭に地元千葉の大手集荷業者が千葉コシヒカリ、あきたこまち、ふさこがねを売り唱えた。この内、あきたこまちが9月15日まで渡し条件1万0500円で2件成約したのに続き、ふさこがねに次々に買いが入り1万0100円で5件が成約した。主力のコシヒカリについては9月末まで渡し条件で1100俵の買いが入り、これに集荷業者が1万0900円で売り応じた。現物の即取り条件ではふさおとめが1万0400円で成約した他、茨城あきたこまちも8月中渡し条件1万0600円で成約した。ただ、買い気が強かったものの指し値が安く産地側が売り応ぜず、トータルの成約数量は昨年を下回った。昨年の取引会の成約価格に比べるとふさこがねが300円、コシヒカリも同程度の値上がりで、概算金の値上り額程の値上がりにはならなかった。
買い手の卸等流通業者が上値を追わなかった最大の要因は、量販店等に納入する白米の値上げ交渉が進んでいないことが上げられる。すでに4年産ふさこがね、ふさおとめが店頭に並ぶ以前に店頭価格は「5キロ1380円」と言う価格が決まっており、この価格に合わせるには上値を追える状況にはなかったという事が出来る。
簡単に言ってしまうと「コメは見直されるはずであったが、そうはなっていない」ということ。実際、先行した宮崎コシヒカリの店頭価格は昨年よりも安かったにも関わらず、引き合いが低調であったことでも裏打ちされる。
新米セールを打っても3年産より高くても買うという消費者が減ったことを意味しており、新米の価値が鞘はげした。これまでのパターンとして端境期に旧穀が値下がりしても新米はその上を買われるという値動きを繰り返してきたが、そうしたパターンが成り立たなくなったことをも意味している。消費者は新古関係なく価格の安い精米に手を伸ばすという傾向が一層強まっている。これは消費者の可処分所得が年々減っていることから見れば当然の購買行動と見ることが出来る。
来月には大産地の北陸、新潟、東北、北海道でも新米の収穫が本格化する。作柄に関しては概ね良好と言うものの気象変動の激しさから水害や高温障害、カメムシ害等様々な収量、品質低下要素が多発しており、文字通り鎌が入ってみないと分からないという状況が続いている。こうした供給サイドの変動がこれから価格変動の要素になることは当然だが、現在、それ以上に注視しなければならないのは需要サイドの動きである。需要はなにも国内だけに留まらない。取引会の前日、アメリカのコメ事情に詳しい人物やアメリカの食品スーパーを傘下に持つ企業と情報交換する機会があったが、その際、現地スーパーでのコメの"特売"情報が話題になった。分かり易く日本円キロ精米換算にすると、特売でゆめぴりかを4000円にしたところあっという間に売り切れたという情報が紹介された。日本の特売価格の2倍の値段で現地でゆめぴりかが売れていることになる。これまでの感覚ではあり得ない現象だが、海外の変動はそこまで来ていることも認識しなければならなくなっている。
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