差別容認・助長内閣とJA女性組織【小松泰信・地方の眼力】2022年8月24日
「すごい下がり方だ。心臓が止まりそうだった」「これだけ、旧統一教会問題でたたかれれば下がるのは当然だ」「参院選を勝利したのに、これほど落ちるとは」「どこまで政権を維持できるかどうかに焦点が移りつつある」等々、語るのは自民党の議員たち。(毎日新聞8月23日付)
強まる「統一教会内閣」批判
冒頭の発言は、毎日新聞と社会調査研究センターによる世論調査(8月20、21日実施。有効回答数965)で、岸田文雄内閣の支持率が前回調査から16ポイント下落し、内閣発足以降最低の36%を記録したことを受けてのもの。
この調査は、国民の政権運営に関する否定的感情が強まっていることを示唆している。
注目すべき調査結果は次の5点。強調文字は小松。
(1)岸田内閣を支持するかについては、「支持する」36%、「支持しない」54%。
(2)8月10日の内閣改造と自民党役員人事については、「評価する」19%、「評価しない」68%、「関心がない」13%。
(3)自民党と旧統一協会の関係に問題があったと思うかは、「極めて問題があったと思う」64%、「ある程度問題があったと思う」23%、「それほど問題があったとは思わない」7%、「全く問題があったとは思わない」4%。大別すれば、「問題あり」87%、「問題なし」11%。
(4)政治家は旧統一協会との関係を絶つべきかについては、「関係を絶つべきだ」86%、「関係を絶つ必要はない」7%。
(5)安倍晋三元首相の国葬については、「賛成」30%、「反対」53%、「どちらとも言えない」17%。
松野博一官房長官は、岸田文雄内閣の支持率急落について「世論調査の数字に一喜一憂はしない」と冷静を装っている。
しかし、「統一教会内閣」と揶揄されるほど、旧統一教会汚染の広さと深さを改めて晒した内閣改造と自民党役員人事、加えて汚染に最も関与していた故安倍氏の「国葬」問題に対する反対世論の強まりを突きつけられ、かなり追い込まれているはず。
別称かつ蔑称「差別容認・助長内閣」
改造内閣は、簗和生(やなかずお)文部科学副大臣と杉田水脈(すぎたみお)総務政務官の起用によって「差別容認・助長内閣」とも呼ばれている。
東京新聞(8月19日付)を参考に、ふたりのおもな言動をおさらいする。
簗氏は2021年5月に自民党の会合で、性的少数者を「生物学上、種の保存に背く(存在)」とする内容の発言をした。
杉田氏はこのレベルではない。2014年10月の衆院内閣委員会で「私は、女性差別というのは存在していないと思うんです」、同年同月の衆院本会議で「男女平等は、絶対に実現し得ない、反道徳の妄想です」と発言。「新潮45」(2018年8月号)に「LGBTだからといって、実際そんなに差別されているものでしょうか」「彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がない」と寄稿。2020年9月の自民党の会合で「女性はいくらでもうそをつけますから」と発言。
問われる岸田首相の見識や任命責任
毎日新聞(8月17日付夕刊)で、与良正男氏(同紙専門編集委員)は、杉田氏の起用を知り「一瞬、耳を疑った」そうだ。そして、「杉田氏のような考え方は、これまでも自民党の一部にはあった。しかし、党全体としては一定の節度があり、これほど公然とは語られてこなかったと思う。それが一転して、安倍政権下で大手を振って表舞台に登場してきたことに驚がくした」とのこと。
そこには、安倍氏の「おごり」と「リベラル派を激しく攻撃する先兵として杉田氏を利用する計算もあった」と推論する。
さらに、就任会見で「過去に多様性を否定したことも差別したこともない。岸田政権が目指す方向性と何一つずれている部分はない」と言い切ったことにも驚き、「この政権が節度を取り戻せるとは到底、思えない」とサジを投げている。
杉田氏は衆院比例代表中国ブロック選出であるが、中国新聞(8月23日付)の社説も、「社会人としての資質さえ疑われる人をなぜ、内閣の一員にする必要があったのか。岸田文雄首相の掲げる『多様性を尊重する社会』にも逆行している。(中略) 性的指向や性自認にかかわらず、誰もが人間として尊重されなければならない。それを否定するのは、ヘイトスピーチ(憎悪表現)と変わらない」と容赦ない。
さらに与良氏が指摘した、就任記者会見での発言を「白々しい」と断じ、差別意識や反省の乏しさを指弾する。
そして、「もはや、差別容認発言をした議員個人の問題ではなくなっている。問われているのは、岸田首相の見識や任命責任だ。今すぐやめさせるべきである」と、とどめを刺す。
これで良いのか!JA女性組織
「あまりにも差別に鈍感な政権と言うほかない」と慨嘆するのは、看護師の宮子あずさ氏(東京新聞8月22日付の「本音のコラム」)。氏は、日本看護連盟の組織内候補者として立候補し、比例で当選した自民党議員4名に対し「差別を容認するような人事について、どのように考えているのか、是非声をあげてもらいたい」と訴える。
なぜなら、看護職の倫理綱領には、〈すべての人々が性的指向、性自認などによって制約を受けることなく、到達可能な最高水準の健康を享受する権利〉への貢献を求める内容があるからだ。
そう言えば、JA女性組織綱領は、男女共同参画社会の実現に向けて「一.わたしたちは、力を合わせて、女性の権利を守り、社会的・経済的地位の向上を図ります」と高らかに謳っている。
改めて言うまでもないが、JAグループは自民党を支持し、ふたりの国会議員を送り出している。さらにその政治組織である全国農業者農政運動組織連盟(全国農政連)は、国政選挙時に自民党候補者を中心に多数を推薦している。当然のごとく、JA女性組織も推薦された候補者の当選を目指して動いている。
ただし、JA女性組織5原則には、「組織としては一党一派に属さず、政治的には中立」の立場をとることが明示されている。
だとするならば、杉田氏のような確信犯的差別容認・助長議員の政務官起用や、そもそもそのような人を候補者とする政党への支持について、JA女性綱領や組織5原則に恥ずかしくない毅然とした姿勢を示すべきである。
それが出来ない限り、農ある世界にとって、男女共同参画やジェンダー平等は夢のまた夢。
「地方の眼力」なめんなよ
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