(306)冬の備えは十分か【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2022年11月4日
11月になると季節が一気に進んだ気がします。今年は2月末以降、ウクライナ関係で気が休まる間もありませんでした。解決が長引けば長引くほど様々な問題が出てくる中で、「防寒」という現実的な問題が迫りつつあります。
比較的順調な日々が継続すると、つい忘れがちになることがある。それは電力を始めとした基本的なインフラだ。毎日が滞りなく過ぎるためにはインフラを維持している仕組みが順調に機能することが大前提だ。しかし、我々は少しでも平穏な期間が続くとその重要性を忘れがちになる。
さて、このところ米国や欧州では冬場の暖房に関する話題がかなり出始めている。ハロウィンまでは秋だが、ここから先は本格的な冬に備えなければならない。気持ちを切り替えようとした段階で突きつけられた現実が、米国のディーゼル・燃料油の在庫が急速減少というニュースだ。
米国エネルギー情報局が公表しているディーゼル・燃料油の2022年10月末の在庫は約1億バレルである。2年前の2020年夏には1.7億バレル前後で推移していたことを見れば急減したことになる。
かつて、筆者が現役の穀物トレーダーであった1980~90年代の米国でもディーゼル・燃料油の在庫は大きく変動したが、そこには典型的な季節パターンが存在した。端的に言えば冬場に需要(暖房用)が上がるため秋から翌年春先までの在庫が減少し、春先から再び在庫が増加するという傾向である。寓話の「アリとキリギリス」のアリではないが、春から夏にかけての米国人は、実は着実に在庫を積み上げた上で冬に備えていたのである。
出典:米国エネルギー情報局資料より筆者作成。
図は、1982年から直近までの米国のディーゼル・燃料油の在庫変動をグラフ化したものだ。これを見ると1980~90年代の変動には明らかに季節性が見てとれる。
その後、2000年代は比較的変動が少なかったが、2010年以降は変動のサイクルが大きく変化している。チャートだけから見れば、毎年の季節的変動から数年ごとの大きな変動にシフトしたようにも見える。
問題は、2020年夏には過去最高近くまで蓄えられていたディーゼル・燃料油が過去2年間で急速に減少したことだ。在庫1億バレルはかつての最低水準に近い。
一般的にはガソリンの価格や在庫が注目される。それはガソリン車を使う人の生活に直結するからだ。だが、産業用大型機械、身近な所ではバスや鉄道、さらには各種工場の機械から船舶、そして農業用に用いられているのはディーゼル・燃料油である。また、米国ではバイオ・エタノールだが、欧州ではバイオ・ディーゼルである。
ここからは大きな視点が必要になる。ロシアによるウクライナ侵攻から半年以上が過ぎ、その間、世界中に様々な影響が生じている。農業分野では小麦・トウモロコシ・鶏肉など、ウクライナの輸出が滞り、需要国は他産地に供給先を求め、それがこれまで別個のフードシステムの中で完結していた日本や東南アジアへも影響を及ぼしている。
同じことがより大規模な形でエネルギー分野でも生じている。近年の欧州はロシアからの天然ガス供給に依存した仕組みの上に多くの産業が成立していた。一旦それが途絶えると供給源を別に求める必要が生じるが、実は余力は大西洋の向かい側にしかない。
この時期、本来なら北米も自国の冬に備えなければならない。そのため、欧州への供給を継続すると北米も厳しい状態に陥る。ディーゼル・燃料油の需給が自国内で完結していた時代は季節性という要因だけを見ていればそれなりに対応ができた。だが、今度は北米と欧州という両大陸の需給を合わせて見て行かなければならない。
チャートが示す近年のサイクルから、そして両大陸の需給がリンクした現状から見ると、この冬はいずれもかなり厳しい状況になりそうだ。
* *
ナポレオン戦争の例を出すまでもなく、冬になると様々な状況が変わります。わが国の食料安全保障も、エネルギー安全保障と密接に関係しています。
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