【JCA週報】一世代を経て:『レイドロー報告』再考5(イアン・マクファーソン、訳:和泉真理)(2010)2023年7月10日
「JCA週報」は、日本協同組合連携機構(JCA)(会長 中家徹JA全中代表理事会長、副会長 土屋敏夫日本生協連代表会長)が協同組合について考える資料として発信するコーナーです。
今回は、当機構の前身であるJC総研が発行した「にじ」2010年春号に、イアン・マクファーソン氏が執筆された「一世代を経て:『レイドロー報告』再考」です。
ボリュームの関係から9回に分けて掲載いたします。途中で他の掲載を挟んだ場合はご容赦ください。
一世代を経て:『レイドロー報告』再考#5/全9回(2010)
イアン・マクファーソン(ヴィクトリア大学名誉教授)
訳:和泉真理、監修:中川雄一郎
はじめに(#1)
1.レイドロー報告考察の2つの論点(#1~#4)
2.変化するグローバル社会における協同組合の位置づけ
(1)外部環境の変化と協同組合の成長(#5)
(2)レイドローが促した国際協同組合運動の努力目標(#6)
(3)協同組合の知的基盤の新たな探求と理論構築を(#6)
(4)レイドローの指摘は運動展開上絶えず生起する課題(#7)
3.レイドロー報告の最も重要な部分一第V章「将来の選択」一(#7)
おわりに(#8、#9)
2.変化するグローバル社会における協同組合の位置づけ
(1)外部環境の変化と協同組合の成長
レイドロー報告のもう一つの特徴一それはレイドロー報告の影響力を説明するのに役立つものである一は、その当時、グローバルな社会を変形させつつあった大きな傾向や流れの中に協同組合を位置づけようとしたことであった。
レイドローが捉えていたそれらの傾向や流れとは次のものであった。すなわち、
*高いエネルギー価格、高い利子率、急激なインフレに起因する困難な経済状況。
*特に政府やビジネスにおける従来型組織・機構への不信の増大。
*政治的信念の変容、自己実現に向けたエスニック・コミュニティの苦闘、それに継続してなされている(ある地域ではむしろ深刻化している)人権侵害によって引き起こされる政治的不安定。
*水、石油、森林それにいくつかの地下資源といった諸資源の危機の拡大。
*食料供給の逼迫。*特に若者の失業および不完全雇用(就業)の問題。
*環境の悪化。
*テクノロジー革新の影響および進歩したテクノロジー/サイエンスの所有権についての問題点。
*ますます強力になっていく大企業の力の集中。
*世界の多くの国や地域における急速な都市化、特にグローバル・サウスにおける急速な都市化。
レイドロー報告では、これらの課題や問題についての議論は簡潔にすまされているとはいえ、また主要な傾向や流れのいずれを選ぶかは人によって違ってくるとはいえ、重要な点は、レイドローはその時期、その時代における主要な経済的、社会的および政治的な変化の中に協同組合運動を位置づけようとしたのだということである。
言い換えれば、彼は、協同組合についての多くの最近の議論や協同組合の歴史に共通して見られる「内部主義的」先入観にほとんど影響を受けなかったのである。内部主義的先入観とは、主に協同組合内部の課題や当面の問題に焦点を当てるアプローチであるが、しかし、このアプローチは、協同組合が立ち向かうべき問題を看過しがちである。それ故、彼は、目的が明確である協同組合の将来の発展にとって極めて重要なのは、また、とりわけ協同組合運動をより大きく成長させていくのに重要であるのは、協同組合の外部に関わる脈絡なのである、との考えを強調してきた。
このレイドローのアプローチの重要性を過小評価してはならない。
協同組合運動は、例外なく、様々な制度を通じて展開されるからである。それらの制度は特定の目的に応じて創出されたり創設されたりするのであって、それ故、それらの制度の効能は経済活動の文化や事業慣行によってしばしば影響を受けるのである。それに加えて、政府は、協同組合の法律や法規を策定する際に協同組合運動を概念化するのに既存の協同組合の慣例を強調する傾向があるだけでなく、あまりにしばしば、協同組合の競争相手となる投資家主導型事業体の規範に様々な種類の協同組合を従わせようとするのである。
このような傾向や試行の結果、多くの協同組合は狭い範囲の課題や問題に焦点を当ててしまい一レイドローが長年にわたり関わってきたアンティゴニシュでは「鳥轍図」(the Big Picture)と呼ばれているような一協同組合運動の幅広い目的を軽視してしまうのである。かくして、協同組合運動はひたすら協同組合の制度に力を入れることに身を任してしまうようになる。こうした焦点の縮小化は古い協同組合と新しい協同組合との違いを露(あらわ)にさせることになり、その結果、協同組合の発展のための「鋭い活力」(bitingedge)の多くが失われてしまうのである。
それ故、『西暦2000年における協同組合』は、その創造的な活力を再強化することに、新しい思想と行動の必要性を強調することに、古い協同組合の努力と新しい協同組合の努力のコラボレーション(協働)を促進することに大きな関心を払ったのである。レイドローは、「単なる過去」にではなく「現時点における可能性」に足を置いていたのである。おそらく、そのことが、彼の故国を含むグローバル・ノースでレイドロー報告が広く読まれず、評価されなかったもう一つの理由なのであろう。
(続く)
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