【JCA週報】死を受け止める地域社会の良心(早川 佐和子)2023年10月2日
「JCA週報」は、日本協同組合連携機構(JCA)(会長 山野徹JA全中代表理事会長、副会長 土屋敏夫 日本生協連代表会長)が協同組合について考える資料として発信するコーナーです。
今回は、本機構の協同組合研究紙「にじ」の2023年秋号に寄稿いただいた論考です。
死を受け止める地域社会の良心
明治大学 准教授 早川 佐知子
1.はじめに−今、人々が求めているもの
早川佐知子氏
(1)私たちの疲れと医療を取り巻く疲れ
周囲を見渡せば、なぜかみな疲れている−そう感じることはないだろうか。斜陽の国の宿命か、コロナのせいか、それとも少子高齢化のせいか。良心なき政治家や経済人にたびたび失望させられているせいか。それらは混沌としたままに国民を取り巻く。
人間が疲れを感じる要素は一つではなく、それゆえ対処法も一筋縄ではいかないということをDalton-Smith(2017)が示した。Dalton-Smith によれば、疲れは以下の7つに分類できるという。
①身体の疲れ。
②精神の疲れ、これはいわゆる「心の余裕がない」状態にあたる。
③感情の疲れ、これは何事もネガティブな思考パターンに陥ってしまう状態である。
④スピリチュアルな疲れ、これは宗教と距離のある人が多い日本社会では、難しい感覚かもしれない。人生が価値なきものに思える感覚、神すらも信じられなくなる感覚、無力感や敗北感に打ちのめされる感覚と表現すればよいか。
⑤社会的な疲れ、これは端的に言えば孤独感である。人間関係にエネルギーを奪われている状態とは異なる。
⑥感覚の疲れ、これは五感に強い刺激を受け続ける日常の中で起こる。特に都会の住民や、IT 機器を手放せない人に多いであろう。
⑦創造の疲れ、これは言うなれば仕事中毒、タスク中毒のような状態である。いずれかに、あるいは複数に心当たりのある人も多いのではないだろうか。
医療を提供する側も、受け手側も、これらの疲れに悩まされているはずである。そして残念ながら、多くの医療機関はそれに応える余裕が与えられていない。この問題を考えるにあたり、筆者はこれら7つの疲れのうち、「スピリチュアルな疲れ」に着目する。理由は3つある。
第一に、医療の現場は人の生き死に直面する特殊な環境だからである。しかしながら、現状では、医療職も一般の人も、人の死をどのように受け止めればよいかということについて、時間をかけて学習する機会もなく、周りの人とそれを分かち合う時間も十分に与えられてはいない。それゆえに、例えば医療職のバーンアウトは、まさにスピリチュアルな疲れに当たると考える。
第二に、患者、特に命の危機にさらされたり、予後が悪いと宣告された人は、自らの生きる意味が大きく揺らぐためである。ご存知のように、WHOが示した「4つの痛み」の中にも「スピリチュアルな痛み」が入っている。
第三に、日本では国民の多くが宗教と縁遠く、盤石な心のよりどころを持ちにくいからである。地縁、血縁、友人関係などは、あれば心強いが、常に一定の形を持ち続けるわけではなく、時に期待に背いたり、脆く崩れ去ったりする。
地域の医療機関が仮に、この「スピリチュアルな疲れ」を癒せる存在になることができれば−もし、この表現が大袈裟であれば、地域社会の良心となることができれば、我々はもっと人生を、そして社会を肯定できるようになるのではないか。
現代を取り巻く得体の知れない疲労感や殺伐感を退治することは容易ではないにせよ、今より少し、希望の持てる社会になりうると考えるのである。希望のよりどころを経済成長にのみ置き続けてきた戦後の日本社会が、転換点を迎えていることは、誰の目にも明らかである。
そのような中で、医療機関のみならず、宗教施設、教育機関、公共施設、そして協同組合など、非営利組織の存在は、地域社会の良心のような存在として、小さな新しい希望を生み出す可能性を秘めているのではないだろうか。
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