防衛費はクラウドファンディングで【小松泰信・地方の眼力】2023年11月8日
11月6日、国立科学博物館(以下、科博)は8月7日から11月5日まで実施していたクラウドファンディング(以下、CF)で、約5万7千人から年間予算の約4分の1に相当する約9億2千万円が集まったことを発表した。当初の目標額1億円は、開始約9時間半で達成していた。

合言葉は、「#地球の宝を守れ」
科博のミッションは、「調査研究」「展示・学習支援」そして「標本・資料の収集・保管」。その根幹をなす「標本・資料の収集・保管」には、空調設備や標本整理などに多額の資金を要する。しかし、ギリギリの運営体制だったところにコロナ禍が襲い、2019年度に約7.5億円あった入館料収入が、20年度は約1.5億円にまで落ち込んだ。さらに、光熱費や物資の高騰が追い打ちをかけ、自助努力や国からの補助だけでは到底追い付かず、事業費・研究費削減等にまで及んだ。この状況を打開するために、「#地球の宝を守れ」を合言葉にCFに挑戦することとなった。
毎日新聞(11月7日付)によれば、記者会見した篠田謙一館長は「目標の9倍の金額が集まり大成功。それ以上に、非常に多くの方から支援をいただいた。支援者の思いや顔が見えるお金。大きな責任を感じる」と謝辞を述べた。さらに「博物館が支持されていると目に見える形で分かったことが一番重要な成果だ。博物館の苦しい状況が世間に伝わり、他の博物館のCFも成功するなどの機運が生まれた」と語る一方で、「返礼品の準備などの手間は想像以上に大変で、我々としてはこれ以上のCFは考えにくい」と述べ、CFはあくまでも「一時的で例外的な集金手段」であることを示唆した。
時事通信(11月6日16時54分)によれば、松野博一官房長官は6日の記者会見で、「ご協力いただいた国民には感謝申し上げる」と謝意を示したものの、国の財政支援が不足しているとの指摘に関しては、「博物館による自主的な予算獲得の取り組みと国からの基盤的手当を合わせて、安定的で優れた博物館運営がなされるよう取り組んでいく」と述べるにとどめた。
政府にとっては他人事(ひとごと)
朝日新聞(8月12日付)の社説は、CFへの挑戦を「たくさんの人々が博物館の現状に関心を向け、潜在していた多くの善意を掘り起こす機会となった」と評価しつつも、「資料を集めて適切な温度や湿度で管理するというごく基本的な機能の維持が、国内最大級の博物館ですら難しくなっているという現実もあらわになった」とする。
多くの文化財を抱える東京国立博物館の館長が今年1月、月刊誌で「国宝を守る予算が足りない」と訴えたことを取り上げ、「同館は不足分の光熱費について対応を求めたが、いまだに結果が出ない。岸田文雄首相や永岡桂子文部科学相も、人ごとのような発言に終始している」と、政府や政治の反応の鈍さに憤り、「日本を代表する博物館が光熱費を工面できず、寄付に頼らざるをえないという帰結を政府はいったいどう考えているのか」と指弾する。
国内の博物館の6割で資料購入にあてる費用が全くないとの調査結果や、収蔵庫不足に施設の老朽化。学芸員には専門性が求められるのに非正規雇用が多い。しかし「文化庁の博物館機能強化推進事業の予算は年間4億円ほど」であることから、「目先の産業振興に膨大な額の予算をつぎ込みながら、その礎になる部分を軽視しているようでは、本末転倒」と、国の姿勢を問題視する。
地方でも文化財の保全費用は課題
福井新聞(11月1日付)の論説は、福井県が本年度から3カ年事業として「福井の文化財を未来へプロジェクト」を開始したことを取り上げている。事業の中心は、国の重要文化財の大安禅寺(福井市)と西福寺(敦賀市)の大修理。ともに10年以上の歳月と数十億円がかかる大事業。費用の8割を国が負担し、県も一部を補助するとのこと。それら以外の建物も修理の対象。
論説子は、「多額の資金をどう調達するか」を課題とし、県内外のCFにおける成功事例を紹介している。
県外例は法隆寺(奈良県)で、2022年景観整備に必要な資金をCFで募り、開始から1日もたたずに目標額(2千万円)を達成。その後も予想以上の寄付が集まり、未指定文化財の修理にも資金を充てることに。
県内例は福井市立郷土歴史博物館で、今年、幕末に活躍した福井藩士橋本左内ゆかりの手紙を修理するために実施。目標額(857万1千円)を上回る925万7千円余の寄付があった。
「文化財の修理を、その意義を理解し、次世代に語り継ぐ機会としても生かしたい」と記し、CFを前向きに捉えている。
地球の宝、国の財産を守らない国ニッポン
CFという資金調達方法を前向きに捉えることを否定しない。しかし、ケースバイケースであることを忘れてはならない。
前回(11月1日付)の当コラムでも、金沢大学が学内の和式トイレの改修費を確保するためCF(最終目標1000万円)を募っていることを紹介し、このような基本的な改修資金をCFで募らせる「この国の文部行政に、未来は託せない」と指弾した。
東京新聞(8月11日付)は、科博のCFが早々と5億円超を集めた時点で、「学術研究に対する国の支援の在り方に問題はないのか」という問題提起を行った。そこで披瀝された有識者の見解は極めて興味深かった。概要は次のようになる。
「博物館の命といえる標本の保存整理という業務を、CFで賄おうというのは異例で、衝撃だった」「『このままでは国民の財産を守れない。窮状を知ってほしい』という科博からのSOSとも受け止めた」「自助努力を求められても、入館料は博物館法の定めもあって高額にはできない。寄付を募るとしても、学芸員が1人しかいないような小規模館では、CFを企画するのも困難で、科博のようなことは地方の博物館ではできない。科博のCFも本来は国が工面すべき費用だった」とは、橋本佳延氏(兵庫県立 人と自然の博物館主任研究員)。
「科学技術を含む文化芸術活動は未来への投資。交付金削減政策はすぐにでも見直すべきだ」とは、竹内薫氏(サイエンスライター)。
「日本における知の蓄積を生かしていくのか、それとも後世に残さない国でいいのか。国の在り方そのものが問われている」とは、鈴木一人氏(東大公共政策大学院教授)。
そして、防衛省が2024年度予算の概算要求で過去最大の7兆円台の防衛費を計上する方向であることを取り上げ、「武器に金を使うが、学術にはケチる。それでは文化的な国と言えまい」と記すのは同紙のデスクメモ。
そうだ!いいことを思い付いた。ぜひ、防衛費は税金から捻出せず、CFで工面していただきたい。
間違いなく、民意が痛いほど分かるはずだ。
「地方の眼力」なめんなよ
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