これまでのIPEFの交渉経過を振り返る【近藤康男・TPPから見える風景】2023年11月30日
今月(11月)13~14日のサンフランシスコでの14カ国の閣僚会合において、インド太平洋経済枠組み(以下IPEF)の、貿易分野を除く3分野(供給網・公正な経済・クリーン経済)について実質的に妥結し、続いて参加国による署名が行われた。
IPEFは、TPPから距離をおいたままの米国のバイデン大統領が2021年10月の東アジアサミットで提案し、2022年5月23日の訪日に際して13ヶ国(フィジーが加わり14ヶ国に)での立ち上げを宣言して始まった。
この間日本が参加した多国間経済連携協定との関連では、CPTPP(TPP11)に加わっている(RCEPには不参加)カナダが、22年10月27日に参加表明はしているものの未だ参加していないこと、国内経済への影響からこれまで多国間経済連携協定に加わって来なかったインドが加わっている点が目を引いた。但し、インドは22年9月の閣僚会合で、貿易分野には参加しないことを表明している。
今回のコラムでは、まず経過を簡単に表でまとめるにとどめ、今後IPEFの進展を追いかけることとした。
22年2月、バイデン政権が米国の"インド太平洋戦略"を公表
【表】IPEF協議開始までの経過
上の表のように、IPEF協議の発足に向けて米国政府が準備を進める中で、22年2月に、19ページに渡る"INDO-PACIFIC STRATEGY OF THE UNITED STATES"が公表された。以前22年10月13日付の本コラムでも紹介したが、この文書は多分、最も包括的なIPEFの「戦略的文書」ではないかと思われる。個別具体的な施策を展開している訳ではないものの、アジアにおける米国の軍事力の再配備や対中国への姿勢について、今日まで具体化されてきた内容が網羅されている。
IPEFの交渉官会合・閣僚会合が本格化
IPEFはなかなか日本政府の資料が公表されないため、交渉経過・内容を把握するのに苦労させられた。USTRと米商務省は、交渉官会合・閣僚会合の都度、"共同声明"という形で報告をしているが、日本の外務・経産省による協定書・プレスリリースなどのウェッブサイトでの公表は、TPPその他の今までの経済連携協定と比べると、非常に不充分だった。
意外だったのは、ジェトロの"ビジネス短信"だ。このサイトでは、かなり頻繁に"ビジネス短信"の文章と共に、公表資料へのアクセスが出来るURLも掲載されている。
IPEF閣僚会合の推移~従来の多国間経済連携協定から、"同志国"による経済安保体制構築への流れの変化だろうか??
【表】IPEF交渉官会合の推移
交渉会合では、実務的に"協議"を進め、閣僚会合で一定の合意、更には実質合意に向けた協議がされた。そして、11月13~14日にサンフランシスコ閣僚会合で貿易を除く3分野で合意・妥結し、署名をした上で16日の首脳会合に付し、共同声明とプレスリリースが公表された。そして、唐突な印象を与える"「IPEF重要鉱物対話」を創設"することが付されていた。
2023年11月16日付プレスステートメントから
従来の多国間経済連携と異なる特徴点は、貿易分野以外の"クリーン経済協定"、"公正な経済協定"で顕著だ。"クリーンな経済"では気候変動・環境対策を謳い、その為の投資家フォーラムを毎年開催し、技術的な協力を進めるとしている。"公正な経済"に関連しては幅広い腐敗防止に関する政策・行動を打ち出している。
そして4分野に関連して閣僚級のIPEF評議会・合同委員会を毎年開催し、全ての閣僚級会合を同じ場所で同時に開催することを目指すとしている。
従来の多国間経済連携協定とは異なる米国政府の拘りを感じる、というのは的外れだろうか?
【参考】ジェトロビジネス短信:特集インド太平洋経済枠組み(IPEFの動向)URLhttps://www.jetro.go.jp/biznews/feature/ipef2022.html
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