(362)タイミングが絶妙:パキスタンのコメ輸出【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2023年12月15日
世界のコメ市場における今年の夏最大のトピックはインドによるコメ輸出制限でした。ところが、秋から冬にかけてより興味深い状況が出現しています。パキスタンのコメ輸出です。
2023年7月、今期は140か国以上に合計2,300万トンのコメ(精米ベース)を輸出すると思われていたインドが大きく方針を転換した。インドのコメ輸出制限の内容はこれまでも記してきたとおり、バスマティ米以外のほぼ全てのコメの輸出を禁止したのである。その結果、当初の輸出見通しは大きく減少し、先月は1,750万トン、12月の米国農務省見通しでは1,650万トンにまで減少している。
これを受けて、世界のコメ貿易見通しは先月の5,285万トンから5,214万トンへとわずかに低下している。主要輸出国の輸出見通しがほぼ同じ中で輸出が堅調な国がパキスタンである。昨年420万トンの輸出が今年は500万トンと史上最高になりそうだ。
パキスタンにおけるコメの需給バランスを理解している日本人は意外と少ないかもしれない。この国のコメの生産量は変動が大きい。一昨年は932万トン、昨年は550万トン、そして今年は900万トンである。同じ時期の輸出数量は453万トン、420万トン、そして500万トンである。国内需要は概ね約370万トンにすぎない。単純な引き算、つまり900-370=540、ということで今年は500万トン程度が輸出可能となった訳だ。
今年の7月20日以降、世界のコメ貿易市場で最大手のインドが大きく退いたため、コメ輸入国はインドに代わる輸出国を求めた。例えば、破砕米。最大輸入国は中国だが、インドは9月には破砕米の輸出も止めている。輸入国のニーズに応えたのはパキスタンだ。
今年のアジアではヴェトナムも2,700万トン、タイ2,000万トンとコメ輸出2大強国はいずれも豊作かつ輸出も順調である。これら2カ国は、構造的にコメを輸入せざるを得ないフィリピン(生産量1,260万トン、国内需要量1,640万トン)やインドネシア(生産量3,350万トン、国内需要量3,580万トン)などと同様の需給構造を持つアジア諸国を主たる顧客としてコメ・ビジネスを展開している。
一方、中東、アフリカなどは近年インドがコメ輸出を大きく拡大してきた。そのインドが輸出制限を実施したため、パキスタンがその間隙を縫って輸出を展開したという訳だ。パキスタンがこれらの国々に輸出するコメの大半はインドと競合するバスマティ米ではなく、通常のwhite riceである。バスマティ米も輸出しているが、こちらはインドが継続して輸出しているため、それほど容易ではないようだ。
いずれにせよ、ビジネスはタイミングが勝負だ。とくに食料は国民の生存に関わるため、必要なタイミングで供給できるか否かが成否を分ける。いくら安くても満腹時には必要以上は食べられないし、空腹のときに食べられれば、同じ料理でも有難みが大きく異なる。
もしかしたら、今年の夏は日本にとっても面白いコメ・ビジネスが展開できた機会だったのかもしれない...などと思うのは、所詮、後付けの講釈にすぎない。だが、少なくとも大国インドのコメ輸出制限を絶好の機会と見て、輸入国であるタンザニア、ケニヤなどのニーズに即応した国があることは再認識しておいて良いのではないだろうか。
もうひとつ、付け加えておけば今年は何と、中米のハイチもパキスタンから10万トンのコメを輸入したようだ。位置関係を考えれば誰がどう見ても普通は米国から輸入した方がはるかに安価なはずだ。
インドという大国の方針転換が思わぬビジネス・チャンスを作り、パキスタンがハイチにコメを売る機会をも作り出した...と考えればタイミングの重要性がよくわかる。わが国でも、こうしたタイミングを活用して面白いビジネスを展開してもらいたいものだ。
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コスト積上げは大事ですが、それでも「危機の中にチャンスあり!」ですね。
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