(373)Armed to Farm【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年3月1日
「Farm to Table」あるいは「Farm to Fork」という言葉は「農場から食卓へ」という形で広く知られているようです。では、「Armed to Farm」はご存じでしょうか。
「Armed」とは文字通りに訳せば「武装(した)」である。やや物騒な単語をいきなり使うが、「Armed to Farm」を某有名翻訳サイトに入力したところ「農場への武装」「武装農場」「武装して農場へ」などというさらに物騒な翻訳となり驚いた。かなり実用に耐えるようになったとはいえ自動翻訳はまだまだである。
さて、誤解を招かぬよう本当の意味に言い換えれば「退職後は農場へ」ということだ。一般に除隊とは「軍人が負傷、兵役満了、あるいは懲戒などにより辞めること」と理解されている。Wikipediaの除隊の項目を見ると、旧日本軍では除隊の対象となるのは兵・下士官の場合であり、将校は退役と呼び区別していたようだ。現在の日本の自衛隊法上はあくまで退職である。
アメリカ軍の場合、名誉除隊、普通除隊、非名誉除隊、不行跡除隊、不名誉除隊の5つがあり、最後の2つは懲戒免職である。除隊は英語で言えばdischargeだが、例えば不行跡除隊はbad conduct discharge であり不適切な行いによる懲戒免職である。
いずれにせよ、軍隊に所属している間は「Armed」だが、いずれは辞めることになる。アメリカ軍の兵では通算20年以上の勤務で普通除隊(年金付き)となる。日本の自衛官の定年は引き上げられてはいるが、それでも54~57歳であり、一般企業よりはかなり若い(若年定年制)。
さて、本題に入る。米国の「Armed to Farm」のサイトを見ると、農務省との連携の上で、2013年以降、1,000人以上の除隊した元軍人を農家へコンバートするための取り組みを実施してきたようだ。ウェブサイトによれば、ファーマー・ヴェテラン(除隊後に農家になった人たちであり、日本語のヴェテラン・ファーマーではない。熟練農家の意味ではむしろexpert farmerなりexperienced farmerであろう)は、ビジネスを成功させ農産物を販売する方法や、アメリカ農務省のリソースへのアクセスの方法、さらにビジネスにおける目標の設定、そして農家たちとのネットワーク構築などをこのArmed to Farmの仕組みを通じて学べるという。
高校を卒業して軍隊に入り20年勤務してもまだ40歳前である。軍隊でさまざまな免許やスキルを取得し大型機械なども動かせるようになったパワーのある40代が、第2のキャリアとして除隊後に農家になる。18歳や22歳からいきなり農家になるのではなく、しっかりと20年働き貯金も年金も得た上で、40代から農業に転身する訳だ。
筆者が前職時代にアメリカ中西部の農家を訪問していた際、何でも自分でこなしてしまう元軍人の農家を何人も見た。農業をどう継承していくかというアメリカの農業の仕組みの一端ともに底の強さを感じたものだ。
さて、日本でももちろん似たようなことは行われている。農林水産省のサイトを見ると、「若年定年制退職予定自衛官の農業体験インターンシップ」などの記事が確認できる。北海道農政事務所旭川拠点地域で昨年10月のものだ。この他にもいくつか同様の記事を見つけることができる。こうした取り組みはもう少し全国的な規模で、できればもう少しメディアなどでも大々的に宣伝しても良いのではないだろうか。
大規模な災害発生後、自衛隊の救助活動により助けられた人は多い。現役時代に自衛隊で学んださまざまなスキルは中高年以降の農業現場で意外と役に立つのではないか。次世代を担う人々を考える際、我々はどうしても若い世代に注目する。それは生物としては当然のことだ。だが、一旦社会に出てそれなりの経験を積んだ後に、農業を志す人が様々な分野から出れば自然と地域には新しい動きが始まる。
若年世代にすべてを預ける前に、まだまだ中堅で農業を志す人は各地にいるだろう。問題は、それをどう支援するかだ。基礎体力があり技術もある元自衛官は日本農業を担う有力な候補者集団の一群のひとつだと思うのは筆者だけであろうか。
* *
40代半ばで人生行路を変えた筆者には、こうしたルートの存在が非常に魅力的に見えます。
重要な記事
最新の記事
-
令和6年春の叙勲 5人が受章(農水省関係)2024年4月29日
-
シンとんぼ(90)みどりの食料システム戦略対応 現場はどう動くべきか(1)2024年4月27日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(8)【防除学習帖】 第247回2024年4月27日
-
土壌診断の基礎知識(17)【今さら聞けない営農情報】第247回2024年4月27日
-
【欧米の農政転換と農民運動】環境重視と自由化の矛盾 イギリス農民の怒りの正体と運動の行方(2)駒澤大学名誉教授 溝手芳計氏2024年4月26日
-
【注意報】麦類に赤かび病 県内全域で多発のおそれ 佐賀県2024年4月26日
-
【注意報】麦類に赤かび病 県内で多発のおそれ 熊本県2024年4月26日
-
【注意報】核果類にナシヒメシンクイ 県内全域で多発のおそれ 埼玉県2024年4月26日
-
【注意報】ムギ類に赤かび病 県内全域で多発のおそれ 愛知県2024年4月26日
-
「沖縄県産パインアップルフェア」銀座の直営飲食店舗で開催 JA全農2024年4月26日
-
「みのりカフェ博多店」24日から「開業3周年記念フェア」開催 JA全農2024年4月26日
-
「菊池水田ごぼう」が収穫最盛期を迎える JA菊池2024年4月26日
-
「JAタウンのうた」MV公開 公式応援大使・根本凪が歌とダンスで産地を応援2024年4月26日
-
中堅職員が新事業を提案 全中教育部「ミライ共創プロジェクト」成果発表2024年4月26日
-
子実用トウモロコシ 生産引き上げ困難 坂本農相2024年4月26日
-
(381)20代6割、30代5割、40/50代4割【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年4月26日
-
【JA人事】JA北つくば(茨城県)新組合長に川津修氏(4月20日)2024年4月26日
-
野菜ソムリエが選んだ最高金賞「焼き芋」使用 イタリアンジェラートを期間限定で販売2024年4月26日
-
DJI新型農業用ドローンとアップグレード版「SmartFarmアプリ」世界で発売2024年4月26日
-
「もしもFES名古屋2024」名古屋・栄で開催 こくみん共済coop2024年4月26日