【浅野純次・読書の楽しみ】第95回2024年3月2日
◎原武史『戦後政治家と温泉』 (中央公論新社、2200円)
吉田、鳩山、石橋、岸、池田。戦後の首相は箱根や伊豆の温泉に長期逗留したり短期滞在を繰り返したりして、政治の舞台は温泉地のホテルや旅館、借用した私邸(豪邸)に移った感がありました。
吉田茂は箱根で温泉三昧、閣議すら無視しての滞在が珍しくなかったらしい。しかも来客はほぼすべて門前払いで、予約を入れた大物が都内から2時間半かけてやってきても面談15分で追い返したりしたとか。ワンマン宰相の面目躍如ですね。東京での公務をすっぽかし続けたので非難ごうごうでしたが、意に介しませんでした。
鳩山一郎は逆に来るもの拒まず、政局の場が箱根の山中に移ったかの観を呈します。石橋湛山は箱根湯本で政権構想を練りました。岸信介は宮ノ下、池田勇人は仙石原と、箱根を政治の舞台として存分に使います。
池田は日米の主要閣僚が箱根で2日間、議論するという派手な演出までしますが、それ以後の首相は、箱根はおろか軽井沢にもめったに行きません。
交通も通信も飛躍的に改善したのに東京を離れない(られない)昨今の首相たちは、心の余裕がなくなったのか。温泉に入って静養しスケールの大きな構想を練るのもリーダーには求められているのではと感じました。
◎片山杜秀『歴史は予言する』(新潮新書、968円)
「週刊新潮」に連載されたコラム90余篇を収録した、歴史に学ぶ濃密なエッセイ集です。政治、経済、社会文化などどれも批判精神とユーモアや機知にあふれていて、どこからでも「つまみ読み」が可能なのもうれしい。
政治の話では、例えば中曽根康弘。社会主義的だった陸軍に対し、海軍軍人たちは社会を民衆の自治に任せ小さな政府を目指す思想に共鳴していました。海軍の流れを汲む中曽根が小さな政府のサッチャーやレーガンとウマが合ったのも無理からぬ話だ、というのはうなずかされます。
次に安倍政権が長期化した訳について。答えは単純、ちょうど日本が下り坂に向かっていたから。そんなときに妙に明るい話をし、積極外交の一方で内にも外にも敵をつくって国民に高揚感を持たせた。なるほどなるほど。
どのコラムも歴史との類比とか逆説とか、へぇと読んでいるうちにすとんと起承転結へ。博覧強記の著者の手玉に取られてしまうという寸法。歴史に学ぶことはほんとに大事だと改めて思いました。
◎村井裕一郎『教養としての発酵』(あさ出版、1650円)
最近「フードテック」という言葉が広がってきたのをご存じでしたか。フードとテクノロジー。食の最新技術を駆使して、食の課題を解決したり革新的な食品を開発したりすることを言います。
特に最近は発酵技術に熱い視線が注がれています。「精密発酵」という技術はその最たるもので、今に驚くべき物質が生まれてくると期待されています。
そんなわけで発酵はとても大事なテーマです。本書は発酵とは何かという基礎知識から世界と日本の発酵、発酵の歴史、発酵業界の現状などを幅広く解説しています。
著者は室町時代から600年続く種麹メーカーの第29代当主で、ビジネスに関わる人々にとって発酵が必須の教養になると強調しています。
今やKoji麹はそのまま世界に通用するのだとか。フランスで伝統みそが造られ北米に酒造組合が出来ているそうで、発酵はまさに国境を超えて広がっていることを知ります。
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