(374)「ズル働き」の持続可能性【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年3月8日
昔から「ズル休み」はよく聞かれましたが、「ズル働き」という表現は初めて聞きました。面白い表現であり、まさに「目から鱗」でした。
先日、何の気無しにテレビのドラマを見ていたところ、若手社会人女性を演じた俳優と上司との会食の場面があった。その中で若手は24時間働くような自分の上司の仕事スタイルを単なる「ズル働き」と表現していた。耳慣れない表現であり、思わず集中して聞いてしまった。
この若手を演じた俳優は、基本的に仕事は8時間労働である以上、仕事を遂行するためとはいえ所定の時間を超えて仕事の内容を考え、実際に時間外で実施する仕事自体を「ズル働き」と指摘した訳だ。その意図は、上司の行動が暗黙のうちに部下に対し「自発的な」同じスタイルの踏襲を求めているからだ。
仕事は上司の背中を見て覚えるという情緒的視点ではなく、あくまで時間内でどう伝えるか、こなすかが求められるはずと悩む若手と、こちらも育児を抱え悩みながら時間のやりくりをしつつ仕事を回している上司とのリアルなやりとりが反映されている。少し俯瞰してみれば、日々の仕事をどう位置付けるかは世代や人により見方が全く異なるという当たり前の点に行きつく。ただ、かつては年中無休スタイルが比較的多くの職場で見られたのに対し、今では仕事に対する価値観そのものが変化したということだ。
もうひとつ例を出そう。同じドラマの別の場面では、職場でディスプレイに向かう上司が後輩に対し(確か)「共有のやり方教えて~」と頼む場面である。テレワークやオンライン会議が出始めた数年前には全国で見られた風景である。部下は即座に対応したものの心の声の形で「IT音痴の上司の介護」など、かなり刺激的な表現が出ていた。これも双方の感じ方の違いと言えばそれまでだが、現実の事例を象徴的に表現している。
「ひどい」とか「けしからん」ではなく、自らの仕事が山積する中で、プラスアルファの業務として突然上司や周りから降る細々とした仕事が増えると年齢に関係なく人間はストレスがたまる。あえて言えばこれは若手に限らずいくつになっても変わらない。ある本の中で、方程式がわかれば簡単に解けるものを鶴亀算で説明するというような下りを見たが、職場ではまさに同様のことが噴出している可能性がある。
デジタル機器やその扱いに強い若手は同じ仕事を「方程式」を使い簡単に仕上げる。しかし、それがわからない上司はアナログの「鶴亀算」をやれと無言でプレッシャーをかけてくる。もちろん、全ての若手がデジタルに強い訳ではなく、全ての上司がデジタルに疎い訳ではない。それでも大きな流れとして、各種の組織内手続きや定型的な作業がデジタル化していることは誰もが認めるところであろう。そうなると最終的な問題は、個々人がどう対応するか、どこまで許容するかになる。そこに一種の軋轢が生じる訳だ。
話は変わるが、先日興味深い文章を目にした。高度経済成長を可能にしたのはがむしゃらに働く労働力が大量に存在したからだという見解だ。日本経済が低迷しているのは労働力の絶対量が減少したからだという内容である。
考えてみれば、定められた時間と範囲で優劣を競う試験とは異なり、実社会では人が休む間に働けばその分だけ対価が得られることが多い。これを多くの人は理解している。ただし、この年中無休スタイルは持続可能性という点では明らかに無理がある。
持続可能性はビジネスだけでなくあらゆる分野において社会的、そして世界的にも関心が高い。やむに已まれぬ事情で一時的に「ズル働き」はしても、それを中長期にわたり持続するのは生物としての人間には不可能である。だからこそ、人々は「隠居」や「定年」のような仕組みを考えてきたのかもしれない。そうなると、仮に人生100年時代が本当ならば、それに対応した仕事の方法に変える必要がある。もちろん農業も例外ではない。
重要な記事
最新の記事
-
果樹産地消滅の恐れ 農家が20年で半減 担い手確保が急務 審議会で議論スタート2024年10月23日
-
【注意報】野菜、花き類にハスモンヨトウ 県内全域で多発のおそれ 滋賀県2024年10月23日
-
【クローズアップ】数字で見る米③ 委託販売と共同計算2024年10月23日
-
【クローズアップ】数字で見る米④ 委託販売と共同計算2024年10月23日
-
千葉県で高病原性鳥インフルエンザ 今シーズン国内2例目2024年10月23日
-
能登を救わずして地方創生なし 【小松泰信・地方の眼力】2024年10月23日
-
森から生まれた収益、森づくりに還元 J‐クレジット活用のリース、JA三井リース九州が第1号案件の契約交わす2024年10月23日
-
食品関連企業の海外展開に関するセミナー開催 関西発の取組を紹介 農水省2024年10月23日
-
ヒガシマル醤油「鍋つゆ」2本付き「はくさい鍋野菜セット」予約販売開始 JA全農兵庫2024年10月23日
-
JAタウン「サンゴ礁の島『喜界島』旅気分キャンペーン」開催2024年10月23日
-
明大菊池ゼミ・同志社大上田ゼミと合同でマーケ施策プロジェクト始動 マルトモ2024年10月23日
-
イネいもち病菌はポリアミンの産生を通じて放線菌の増殖を促進 東京理科大2024年10月23日
-
新米「あきたこまち」入り「なまはげ米袋」新発売 秋田県潟上市2024年10月23日
-
「持続可能な農泊モデル地域」創出へ 5つの農泊地域をモデル地域に選定 JTB総合研究所2024年10月23日
-
「BIOFACH JAPAN 2024」に出展 日本有機加工食品コンソーシアム2024年10月23日
-
廃棄摘果りんご100%使用「テキカカアップルソーダ」ホップテイスト新登場 もりやま園2024年10月23日
-
「温室効果ガス削減」「生物多様性保全」対応米に見える化ラベル表示開始 神明2024年10月23日
-
【人事異動】クボタ(11月1日付)2024年10月23日
-
店舗・宅配ともに前年超え 9月度供給高速報 日本生協連2024年10月23日
-
筑波大発スタートアップのエンドファイト シードラウンドで約1.5億円を資金調達2024年10月23日