【浅野純次・読書の楽しみ】第97回2024年4月19日
◎神野直彦『財政と民主主義』(岩波新書、1100円)
著者が精魂込めて書き上げた力作です。「財政」というと庶民から遠く思いがちですが、税金から国や地方のおカネの使い方まで、私たちの暮らしに深く関わっています。
そもそも民主主義と財政はコインの表と裏の関係にあり、一方が歪めば他方も必ず歪みます。本書で繰り返し批判の対象となる新自由主義は、「財政と民主主義」の対極に位置するものといえます。
「財政とは、社会の構成員の共同事業を、構成員の共同負担で、構成員の共同意思決定に基づいて運営される民主主義の経済」である、と著者はまず規定しています。深く味わいたい定義づけです。
民主主義によって有効に機能する「賢い財政」を築くことが人間が人間らしく生きる未来のビジョンを創造することにつながる、ともあります。このように民主主義をどう定着させ活用するかが本書の主たるテーマです。
もちろん、機能不全に陥る日本の財政の分析や、税負担は軽いけれど社会保険に寄りかかりすぎている日本の社会保障の問題点、あるいは高齢者福祉はいかにあるべきか、など財政の直面する多様なテーマが平易にしかも本質をついて論及されていて、息つく暇もありません。今年上半期屈指の良書として、強くお薦めします。
◎古屋星斗ほか『「働き手不足1100万人」の衝撃』(プレジデント社、1760円)
トラックの物流が滞っている、バスが減便になる、宅急便が届かない。みんな運転手不足のせいですが、本番はこれからです。本書は「2024年問題」どころか、2040年に驚愕すべき事態が到来することを紹介し、分析、提言を行います。
何より問題なのは、私たちの生活を支えているインフラとしての生活維持サービスが消滅しようとしていることだという指摘には背筋がヒヤリとします。
第2章「都道府県別&職種別2040年労働需給予測」、第4章「地方企業の窮状」がまず参考になります。話が具体的なだけに貴重なヒントが得られるでしょう。
第5章からの「働き手不足を解消する四つの打ち手」では、「徹底的な機械化・自動化」「ワーキッシュアクトの拡大」「シニアの小さな活動」「企業のムダ改革とサポート」と続きますが、どれも意義深い対応策といえるでしょう。労働供給制約は日本が直面する最大の課題です。本書によって2024年問題に国民的取り組みが広がることを期待します。
◎内田樹『だからあれほど言ったのに』(マガジンハウス新書、1100円)
新聞雑誌などに寄稿してきた長短40本あまりの論文やエッセイから構成されていて、前半が時事的なテーマ、後半が主として生き方に関わるようなテーマです。ただ率直にいって、私は前半のほうが面白く読め、かつ参考になりました。
まず紹介したいのは人口減少問題です。日本のリーダーたちは地方の人口は減るに任せ、東京一極集中で国の将来を乗り切ろうとしている、だが反面教師としてのシンガポールがどれほど非民主主義的で問題だらけの都市国家であるかしっかり見極める必要がある、という指摘はまさにそのとおりでしょう。
ほかにも食文化は「経済」ではなく「安全保障」だとか、ダメな組織の共通項だとか、行政は本来、弱者のためのものである、など熟読玩味すべき論点が並んでいます。なお先ほど生き方に関わる本書の後半をやや否定的に書きましたが、「知的であるとは慎ましいこと」という論考には大いに啓発されました。
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