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【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】農水予算を以前の規模に戻して農業・農村を「復活」~一次産業にこそ積極財政2024年5月23日

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 最近のメディア・インタビュー(テレビ愛知、5月22日と23日に放送)のQ&Aを基に基本法に関わる農政を考えた。

Q改定基本法の率直な受け止めは?
 農業・農村を守り、国民の食料を守る「食料・農業・農村基本法」にはなっていない。

Q食料安全保障の確立は可能か?
 新基本法ではできない。赤字で苦しむ農家を支えて食料自給率を向上するのが安全保障の要だが、その方向性が示されず、農家の赤字を放置したまま、有事だけ罰則も設けて農家に強制増産してもらえばよいというが、それは無理だ。

Q食料の安定的な確保のための輸入の位置づけは?
 いまだに輸入重視の姿勢だが、お金を出せば食料をいつでも安く輸入できる時代でなくなったのだから過度の輸入依存を脱却し、国内生産を増強することが従来以上に求められている。輸入先の多角化や海外農業生産投資を否定はしないが、物流が止められたときは役に立たない。

Q基本法改定にメディアも国民も関心が薄い?
 まだ、食料が買えなくなる実感が薄い。しかし、輸入食品の高騰やオレンジ・ジュースが消えるという報道がされ、流れは変わりつつある。「農業問題は消費者問題だ」ということが理解されていない。農業者の平均年齢が約70歳で、あと10年で日本の農業・農村が崩壊しかねない中で農家の赤字を放置したら、輸入が滞る事態になったら、消費者の自分達の食べる物がなくなる。

Q価格転嫁できない問題は?
 加工・流通業界も消費者も、農家が経営継続できる価格で買わなかったら、結局、自分もビジネスができなくなり、自分の食べ物もなくなることが理解されていない。

Q政府がやるべきことは?
 農家が経営継続できるための価格と消費者が払える価格のギャップを埋めるのは政策の役割だ。欧米水準に農家への直接支払いを増やすべきだ。日本の農家一戸当たりの直接支払額は欧米の半分程度だ。農家一人当たりの農業予算は米国の1/10、ヨーロッパの1/2~1/3、農家一戸当たりでは、米国の1/5、ヨーロッパの1/2~1/3しかない(篠原孝議員事務所)。

各国の農業予算比較

 今、農村現場で奮闘している農家を支える政策はこれ以上必要ない(すでに十分な政策があるのに潰れる農家は潰れればよい)として、基本法の関連法で、輸出、スマート農業、海外農業投資、農外資本比率を増やすことなどを具体化しようとしている。誰の利益なのか。

 本来、関連法の一番に追加されるべきは、現在、農村現場で苦闘している農業の多様な担い手を支えて自給率向上を実現するための直接支払いなどの拡充を図る法案ではないか。生産コスト高に対応した総合政策がないから農家の廃業が止まらないという政策の欠陥を直視すべきだ。

 3万円/10aの農地維持基礎支払い、標準的な生産費と標準的な販売額との格差を不足払いする制度の一環として、3万円/10aの稲作赤字補填、10万円/1頭の酪農赤字補填、さらに、1.2万円/60kgで500万トンの備蓄・国内外援助用の米買上げ、これらを足しても2.7兆円、これだけの予算拡充で農業・農村は大きく「復活」し、日本の地域経済に好循環が生まれる。もともと、農水予算(物価を考慮した実質額)は5兆円以上あった。以前に戻すだけだ。関連法に代替する超党派の議員立法でこれらを実現することも検討も進行中であり、期待したい。

 在庫処分の武器購入に何十兆円もかけるより、この財政支出を確保することこそが国民の命を守る安全保障ではないか。私たちは不測の事態に、トマホークとオスプレイとコオロギをかじって生き延びることはできない。いざというときに国民の命を守るのを「国防」というなら、食料・農業・農村を守ることこそが一番の国防だ。

 農林水産省は、以前は、財務省、経産省に対する対抗力(カウンターベイリング・パワー)を発揮しようと闘っていた。農水省が、財務省、経産省と同じになったら、日本の豊かな農村コミュニティーは崩壊し、さらに都市部が過密化し、国民はいざというときに食べる物がなくなる。このような歪な日本にするわけにはいかない。

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