届けJA職員の声【小松泰信・地方の眼力】2024年7月3日
「農家に加え、JAでも人手不足が深刻化している。団塊の世代の退職に加えて若手職員の退職が相次ぎ、職員数が減っている」(日本農業新聞・論説、5月8日付)
鍵はコミュニケーションの強化
そして論説は、若手職員の定着に向けた取り組みを紹介する。
JA北海道中央会根釧支所は、離職理由を分析した結果、「職員同士の対話不足により、入組時に抱いていたJA職員としての志を失わせ、仕事への意欲が減退し、転職希望を抱く要因になる」ことを突き止めた。その打開策として、23年度から管内にあるJAの入組5年目までの職員を対象にした「コミュニケーション促進プロジェクト」を開始し、対話力を磨くことに。そこから、「若手職員にとって、トップダウン型の旧態依然とした組織に魅力を感じられない。求められるのは、ボトムアップ型だ」として、「あなたはどう思いますか?」と若手や女性の意見に真剣に耳を傾けることを役員に求めている。
JAあいち知多が全職員を対象に階層、職種ごとでグループをつくり、常勤役員と意見を交換する場を設けていることなども紹介し、「JAを持続可能な組織にするためには、コミュニケーションの強化が鍵」と結論づける。
聞く耳をお持ちですか?
6月、関東のA県中央会による中核人材育成研修会で講義をした。この論説に関する受講生の意見を事前レポートとして課した。さすがJAの事業と活動を担うことが期待されている30歳代から40歳代前半の精鋭たち。現場感覚に満ちた指摘の数々に教えられたのは当方。注目すべき指摘は次のように整序される。
まずは、切実かつ耳の痛い意見。
①当JAも未だトップダウン型なので、若手職員の離職が相次ぐ。役員の「任期を過ぎれば...」の考えがある限り、改革は難しい。ES(職員満足度)を向上させるためには若手・現場の意見を煙たがることなく聞き入れてほしい。コミュニケーション不足ではなく、最初から意見を聞く気がないのが問題である。
②JA職員の減少は当JAにおいても大きな問題である。昨年度末、定年退職の職員を除いて15名ほど中途退職した。若手の職員だけではなく課長クラスの職員が3人ほど退職したことに私自身大きな衝撃を受けた。若手職員が離職する要因は賃金の問題・コミュニケーション不足などいろいろとあるが、世話になった先輩が途中で辞めてしまうことは、このまま仕事を続けて良いのかと自身の進退まで考えさせられるほどだった。常勤役員との意見交換の場を設けているJAがあるとのことで、率直に素晴らしいと思った。ぜひ当JAにも導入してもらいたいと思った。私自身15年の農協人生で、役員と意見交換をしたのはたったの1度しかない。しかし、意見を聞いてもらうだけでも若手職員は嬉しく仕事に熱意を持てるようになるかと思う。より多く役員と職員が意見交換する場を設け、前時代的なトップダウン型の組織から、ボトムアップ型の組織へと変えていくことが必要だという思いを強くした。
聞いて理解したら改善に着手
聞くだけではなく、職場の環境改善への着手を求める意見。
③今後のJAには、人材を大切にする姿勢が必要だと思う。新採用をすぐに増やすことは他企業との競争がある以上難しい面もある。まずは今いる人材の要望を聞き、理解したらそれに基づいて改善する。これだけのことでも、離職防止は可能である。
④現代社会では労働者ニーズの多様化が進んでおり、必ずしも仕事が第一ではなくなってきている。家族や友人や趣味が第一とする人々も多い。JAもワークライフバランスについてより一層、取り組むことが重要。
⑤退職者の多くは20代・30代の若手職員。理由としては職種とまったく異なる部署への人事異動や推進等のノルマで退職率が高くなっていると思う。また、退職者が多いので、人員不足になり業務多忙等の理由で退職する職員もでてきてしまい悪循環の状況。JAとしては、定年まで働きたいと思えるような職場にするべきだ。そのためには、今まで以上に人材育成、働きやすい環境整備が必要だ。
⑥コミュニケーション能力の向上も必要であるが、離職を考えない職場づくりをすることも急務である。若手職員自らの考えをベースに業務を遂行できる職場、率先して意見が出せる職場等を目指し、やりがいを感じられる職場づくりに取り組む。
なお、給与・賃金問題に関する意見もあった。
⑦賃金に関する問題は避けて通れないが、論説では触れられていないことに違和感を覚えた。賃金については、若者の多くは一律上昇よりも適正化即ち労働の量質に応じた支給がなされることを望んでいる。また、資格認証制度を活用し、有資格者に対しては給与面で加算する必要がある。
希望あるビジョンを
希望あるビジョンを求める意見。
⑧退職の大きな要因のひとつが、「経営の将来性に対する不安」と考える。最近、役員が朝礼で「今年は今までにない厳しい経営状況」と語るが、若手の職員はこの言葉に不安を抱き、転職活動を考え始めたと聞く。我々中堅職員とベテランの職員が若手に希望のあるビジョンを見せることが重要と考える。
危機と希望
事業総利益は減少、組合員数も減少、職員の離職に歯止めがかからず新規採用もおぼつかない。経営面で依存してきた信用事業と共済事業にも多くを期待できない状況にある。どこから見てもJAグループはジリ貧の危機的状況にある。しかし、JA大会の組織協議案からは、危機感が伝わってこない。もちろん、「危機感を強調しすぎると、職員や組合員、そして事業利用者のJA離れが拡大し、ますます負のスパイラルに陥ります」という意見も容易に想定できる。
だからといって、現場と乖離した絵空事でやり過ごすと、待っているのは悲惨な結末。正直に構成員に危機であることを伝え、皆で知恵を出して自分の足元からの解決策を見つけ出す。そしてそれぞれが応分の責任を負って解決策に取り組む。
この地道な取り組みにしか希望は見いだせない。
「地方の眼力」なめんなよ
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