お盆の役物(やくもん)は蓮と鬼灯【花づくりの現場から 宇田明】第40回2024年8月8日
お盆、物日(ものび)、花産業の最繁忙期。
東京とその周辺は新暦で7月ですが、大多数の地域では、お盆は月遅れの8月。
学校だけでなく企業も夏休み、帰省して墓参りが日本の伝統文化です。
そのお盆の花の主役は、蓮(はす)と鬼灯(ほおずき)。
関西の花業界では、特別な時期の縁起物で格が高い花を役物(やくもん)とよんでいます。
お盆の蓮のほかには、迎春の松、千両、万年青(おもと)、梅などです。
市場で役物を担当するのは限られたひとで、せり人の誇り。
役物の語源は業界でもわかっていませんが、相撲の役力士に相当するのでしょうか。
「蓮は泥より出でて泥に染まらず」
その姿から、仏教では蓮華と称され、極楽浄土の花と尊ばれています。
どんなに高貴な花であっても、お盆に咲かなければお供えになりません。
ほしいときにあってこそお供えになり、商品になることは、昔も今もかわりません。
七十二候の「蓮始開(はす はじめてひらく)」は、ちょうどお盆の時期に重なることで、蓮がお盆の役物になることができたといえます。
蓮には、地下茎の蓮根(れんこん)を食べる食用蓮と、花を楽しむ花蓮があります。
どちらも水を張った水田で栽培されています。
花蓮で多くつくられている品種は「誠蓮(まことはす)」。
福岡県の佐藤誠さんが、1931(昭和6)年に、食用蓮のなかにきれいな花色の蓮を発見。
30数年にわたり改良を重ね、「誠蓮」と命名(農林水産省名称登録176号)。
花びらが150枚もある八重で、花(つぼみ)が大きいので切り花として好まれています。
花(つぼみ)だけでなく、巻葉(幼葉)、開葉(成熟して開いた葉)、蓮台(花びらが散ったあと)も利用されます(写真1)。
蓮台、つぼみ、巻葉を、過去・現在・未来の三世に見立て、お供えします。
地下茎の蓮根の穴が茎から花にまで通じていますが、水圧で水があがるだけで、蓮自身の吸水力はほとんどありません。
そのため、切り花のつぼみは、池に咲く蓮のようには開かず、つぼみのまま萎れてしまいます。
炎のようなその見た目からも連想されるように、漢字では「鬼灯」と書きます。
ご先祖様が迷わずに帰って来られるように、明かりを灯す提灯(ちょうちん)に見立て仏壇などに飾るようになったと言われています。
もともとは関東のお盆の風習で、関西にはなじみが薄い花材です。
いまでは全国的に流通するようになり、関西でも仏花、墓花につかわれることが増えました。
鬼灯の切り花は、まさに提灯のような実が下から上まで炎のように着色していいます(写真2)。
これはホルモン剤を散布して、緑色の実を一斉に着色させているからです。
自然の状態では、下から順に着色し、上の実は緑色です。
上の実が着色した時には、下の実は老化し萎れています。
お盆には、蓮、鬼灯のほかにも盆花(ぼんばな)とよばれるものがあります。
禊萩(みそはぎ)や女郎花(おみなえし)です。
禊萩は、溝のそばなど湿った場所にどこにでも自生して、濃いピンクの花を咲かせます。
女郎花は秋の七草ですが、花が咲くのはお盆のころ。
黄色い小さな花が房のように咲きます。
これらは盆花として栽培されていましたが、激減しています。
お盆の時期に安定的に入手できる切り花の種類が増えたことや、消費者だけでなく花屋も伝統や慣習にこだわらなくなってきたためと考えられます。
さらに、役物として特別視されている蓮、鬼灯も生産が不安定なことや、蓮はつぼみのままで咲かず、鬼灯は実で動きがないので、造花で代用することが増えています(写真3)。
それよりも、熱中症特別警戒アラートが発令される猛暑のお盆は、高齢者には墓参りが危険な行為になっています。
お盆には墓参り、お盆の役物は蓮、鬼灯、盆花は禊萩、女郎花といった伝統や慣習も、過去の話になりつつあります。
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