【浅野純次・読書の楽しみ】第100回2024年8月29日
◎田中秀征『小選挙区制の弊害』(旬報社、1650円)
裏金問題は自民党の屋台骨を揺るがしていますが、自浄能力が発揮されそうな気配はありません。日本の政治はなぜこれほど劣化してしまったのか。著者は長期一党支配体制の弊害から始めます。
まず憲法の恣意的解釈。首相が自由に衆議院を解散できるのはその典型です。次に独り善がりな省庁再編。「行政改革」の名のもとに日本の劣化を生みました。さらに目も当てられないほどの世襲政治の蔓延。世襲は封建時代そのもので、政治家の劣化と同義でもあります。
政策に強い政治家はもはや絶滅危惧種です。不見識な上司や組織に立ち向かうまともな政治家がいなくなったと著者は嘆いていますが、まったく何のために政治家になるのか。
それもこれも小選挙区制のおかげだとして、提起されるのは中選挙区連記制です。
定員5人で2人連記が標準になるそうで、これだと候補者を決める党が絶対権力を握る今の権力構造が解体される(与党からは3人でも4人でも自由に立候補できる)、野党も不毛な選挙協力をせずに各党それぞれに政策本位の立候補ができる、死票が減り投票率が上がる、などプラスが多くなります。本書によって選挙制度改革の機運が高まることを心から切望します。
◎有坪民雄『誰も農業を知らない2』(原書房、1980円)
なんとも刺激的な書名です。前著では「大規模農業が理想的である」「有機農業こそ望ましい」「遺伝子組み換えは危険だ」などの通説が徹底批判されたのですが、大規模農業はみな交付金漬けであり実は自立できていない、など通説批判は相変わらずです。
ただ今回はSDGs(持続可能な成長目標)が主な論点となっています。SDGsとみどりの食料システム戦略、土壌保全の重要性、食品ロスをどう減らすか、温室効果ガス削減の切り札は、などがそれで、世間の常識がいかに的外れか舌鋒鋭く迫っています。
中でも食料自給率は当面上げる必要はないというのは重要です。これは飼料輸入と有機肥料に関わっていてこれ以上、触れませんが、そういう戦略的、逆説的な主張が多いのが本書の特徴です。
著者は稲作と和牛肥育の専業農家で、大いに論争的なところが面白い。異論反論も大いに聞きたいところで、ただ「そうですか」、で終わってはつまりません。日本農業の未来に関わる話ですから。
◎工藤孝文監修『疲れない人の習慣、ぜんぶ集めました。』(青春新書、1177円)
肉体的にも精神的にも疲れることの多い昨今なので、タイムリーな企画の本かと。疲れないためには食習慣、運動、睡眠、気の持ちよう、などが大事なはずで、内容的にはおおむねそのような構成となっています。
目についた個所をつまみ食い的に紹介すると、疲れに効果があるのは鮭、酢、キムチ、アスパラガス、色の濃い果物と野菜、海産物等々。そうそう家で飲む缶ビール1本もいいそうです(1本です)。
眠りでは、夜中に目が覚めたら時間を確認しない、早朝散歩が眠りを深める、快眠に睡眠前のスマホは禁物、など。眠れないときは100、99、98と数えていくといいとか(1になったら繰り返す)。
デスクワークが長くなったら用がなくとも立って少し歩く、「すみません」と言う代わりに「ありがとう」と言う、ボランティア活動で疲れが吹っ飛ぶ、などまだまだありますが、販売の妨げになってはいけないのでこの辺にしておきます。
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