【浜矩子が斬る! 日本経済】今の日本経済にアホエノミクスは要らない 弱者切り捨て政策再び2025年10月20日
「サナエノミクス」という言葉がちらほら目に止まるようになっている。高市早苗氏が自民党新総裁となり、総理大臣にも就任するかもしれない。その人が打ち出すであろう経済政策だから、サナエノミクスだというわけだ。
エコノミスト 浜矩子氏
筆者は、サナエノミクスをアホエノミクスと呼び替えたい。なぜなら、高市氏は故安倍晋三元首相、すなわち筆者呼ぶところのアホノミクスの大将のお弟子さんだ。もっぱら、アホノミクスの再始動に向かうとみられている。自民総裁選中も、新総裁就任後も、実際にその路線を踏襲するだろうと思わせる発言が相次いだ。
「安倍政権が発足すると決まったら、株が上がったじゃないですか。円高是正が進んだじゃないですか」政権発足の2012年当時、アホノミクスの大将はこう言っていた。つまり、アホノミクスは株高・円安を指向していた。この方向感が目指したところは何か。それは、強くて大きくて裕福な者たちが、より強く、より大きく、より豊かになることだった。
株高になれば、多くの株を保有する資産家たちが潤う。円安になれば、大輸出企業たちの円建て売り上げがかさ上げされる。好業績が彼らの株価をさらに押し上げる。円安と株高の「好循環」が強くて大きくて裕福な者たちをさらに一段の高みへと押し上げて行く。かくして、強い日本経済が出来上がる。強い日本経済は強い日本国の土台となる。21世紀版大日本帝国の実現に貢献する。アホノミクスは、このシナリオの下に繰り広げられた。
つまり、アホノミクスは世のため人のための経済政策ではなかった。それは、強き大日本帝国の経済的土台形成の手段であった。
この戦略の中に、世のため人のためが入り込む余地はなかった。弱者救済のモチーフが組み込まれるスペースは存在しなかった。強くて大きくて裕福な者たちがより強く、より大きく、より裕福になることを追い求める政策展開の中では、弱くて小さくて貧困なる者たちは、足手まといの邪魔者でしかありえなかった。振り捨てて行くに限る人々だった。
この構図があまりにもあからさまになることに、さすがにアホノミクスの大将も少々まずさを感じたか。チーム・アホノミクスが、ある時から持ち出し始めたのが「トリクルダウン」論だった。トリクルダウンは"trickle down"。「滴り落ちる」の意だ。上つ方に恩恵が降臨すれば、その効用はいずれ下々にも波及する。ひいては、上層部を潤わせることが経済社会全体を豊かにする。そういう論法である。要は、経済社会の下層部に属する者どもは、おこぼれが上の方から滴り落ちて来るのを待っておれ、というわけだ。この論法にしたがって、かつて米レーガン政権下のレーガノミクスが金持ち減税を実施した。
だが、経済的トリクルダウンが起こるということが実証された事例はない。考えても分かるだろう。かの「シャンパンタワー」というものをイメージして頂きたい。お祝い事の時にシャンパンクラスでピラミッドを築き、そのてっぺんからシャンパンを流し込む。すると、最下段に向かってどんどんグラスがシャンパンで満たされて行く。
派手な光景だ。だが、あれほどのシャンパンの無駄使いは無い。全グラスが満たされるまでに、漏れ落ちるシャンパンの分量が並大抵ではない。ばらまきの無駄を絵にかいたようなものだ。
何も、シャンパンタワーなどという浮世離れしたシーンを持ち出すまでもない。日常のお風呂掃除もそうだ。洗浄液を上からざっと振りまいて、それを上からざっと流したのではダメである。むらが出る。黒味が残る。やはり、きめ細かく局部に留意してこすったりふいたりしなければいけない。
アホエノミクスの下では、またぞろ、弱くて小さくて貧しき者たちが取り残されて行く。経済社会の隅々まで気を配る。そういう魂のエコノミクスが求められている。
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