首相はウィーン条約をご存知か【小松泰信・地方の眼力】2026年4月1日
「1 使節団の公館は、不可侵とする。接受国の官吏は、使節団の長が同意した場合を除くほか、公館に立ち入ることができない」「2 接受国は、侵入又は損壊に対し使節団の公館を保護するため及び公館の安寧の妨害又は公館の威厳の侵害を防止するため適当なすべての措置を執る特別の責務を有する」(外交関係に関するウィーン条約 第二十二条)

中国大使館への自衛隊3等陸尉侵入事件
3月24日朝、東京都港区の中国大使館に陸上自衛隊の3等陸尉(23)が刃物を持って侵入した。取り押さえた大使館側が警視庁に引き渡した。同日夜、警視庁は建造物侵入容疑で逮捕した。隣接するビル4階から塀を乗り越えて侵入したとみられる。3月に初任地として九州地方の駐屯地に配属されたばかりだったとのこと。
翌25日に中華人民共和国駐日本国大使館HPに掲載された抗議文(全文)はつぎの通りである。
「3月24日午前、自衛隊員を自称する人物が塀を乗り越えて中国駐日本大使館に強行侵入し、いわゆる『神がみに代わって』と称して中国の外交官を殺害すると脅迫した。当該事件は『ウィーン外交関係条約』に著しく違反し、中国駐日本大使館の人員および施設の安全を深刻に脅かすものであり、その性質と影響は極めて悪質である。この事態は、日本国内において極右思想と勢力が一層猖獗(しょうけつ・小松注;悪い物事がはびこり、勢いを増すことや、猛威を振るうこと)している現状、ならびに自衛隊の拡張と管理不備という危険な実態を露呈している。国際社会は厳重な警戒を払うべきである。
中国駐日本大使館はすでに日本外務省に対し厳正な申し入れと強い抗議を行い、日本側に対し、直ちに事件の徹底的な調査を実施し、関係者を厳正に処分し、中国側に対して責任ある説明を行うよう求めている。同時に、駐日本大使館・総領事館の人員および施設、ならびに在日中国公民の安全を確実に保障し、同様の事件の再発を断固として防止するよう強く求めている」
「抗議」は「申し入れ」ではない
毎日新聞(3月26日付)によれば、木原稔官房長官は25日午前の記者会見で、「法を順守すべき自衛官が逮捕されたことは誠に遺憾だ」と述べた。木原氏によると、24日に中国側から事件についての申し入れと再発防止の要請があった。日本側からは遺憾の意を伝えた上で「関連の国際法および国内法令に従って、再発防止も含め適切に対応していく旨を説明した」とのこと。政府関係者によると、中国側の申し入れは「抗議」。「抗議」を「申し入れ」と言い換える首相側近の姿勢、何をか言わんや。
さらに中国のSNS「微博」では、今回の事件が検索ランキングの上位に入り、投稿欄には「非常に怖い」「厳しく処罰されるべきだ」といった声が並んでいることや、中国紙「環球時報」が25日の社説でこの事件を取り上げ、「日本の右傾化の危険な動きが暴露された」と主張したことを紹介している。
同紙(3月28日付)は、中国国内において「日本政府は謝罪を拒んでいる」との反発の声が上がっていることを伝えている。
前述した「誠に遺憾」との表明に対して、「環球時報」(27日付)の社説は「日本側のお茶を濁すような態度は、極めて悪質な事件の性質とはあまりに落差が大きい。国際法に基づく義務の無視であり、極右思想の放任だ」と指摘。今回の事件を「国交正常化以来、前代未聞のテロ行為」と表現し、「もしも『誠に遺憾』でやり過ごし、謝罪を拒み続けるならば中日関係はさらに悪化するだろう」と強調し、日本政府による謝罪と厳正な処罰を要求している。
中国外務省の林剣副報道局長も27日の記者会見で、「誠に遺憾」との表明に、「それでは全く不十分だ」と述べたとのこと。
もとはといえば高市首相がまいた種
集英社オンライン(3月25日12時03分配信)は、警視庁の発表に基づき「容疑者は取り調べに素直に応じ、『中国大使に面会し、強硬な発言をやめてほしいと意見しようとした』『聞き入れられなければ自決しようと考えていた』と供述しているそうです。相手を傷つけるためではない、との趣旨の供述もしているそうです」と伝えている。
中国と警視庁の発表内容には明らかに違いがあり、詳細は不明。だがしかし、現役の幹部自衛官が凶器を携えて大使館に侵入したことは間違いなく犯罪行為。
北海道新聞(4月1日付)の社説は、中国への謝罪を避けている政府に対して、「個人の起こした問題として軽視してはならない。謝罪の意思を明確に示し、経緯を詳細に検証すべきだ」とする。さらに、「自衛官が政治的な意思を威嚇的な行動で示すのは言語道断だ」と断じ、「自衛官教育を含め、再発防止策を急ぐ必要がある」と訴える。なぜなら、ウィーン条約の締約国にもかかわらず、迅速な対応ができなければ、「日本の国際的な信用を傷つけかねない」からだ。
「振り返れば、緊張のきっかけは首相の不用意な発言である」と、台湾有事答弁に言及し、「首相は事件への見解を示した上で事態収拾を主導すべきだ」と諭している。
最後は、「戦前・戦中のように実力組織が暴力で政治を変えようとする動きが広がれば、大原則である文民統制は根本から崩れる」ことから、「政府や自衛隊幹部の責任は重い」と締める。
「遺憾」は絶対にイカン
「遺憾とは本来、思い通りにならず残念という意味だ。ことを起こしたのは日本側で、政府の一員による犯罪なのだから、適切な表現ではなかったと言わざるを得ない」として、木原氏の「遺憾」発言に疑問を呈するのは、朝日新聞(3月31日付)の社説。
同じく「まことに遺憾です」と、27日の記者会見で事件に言及した小泉進次郎防衛相に対しても、「遅きに失した」と苦言を呈し、「これでは中国側への配慮が欠けていると批判されても仕方ない」とする。
「北京の日本大使館に中国軍人が刃物を持って入ってきたら、と考えてみれば事件の重さは想像がつく」と、具体例をあげたうえで、日本側の対応を「潔さを欠く」と指弾する。そして、「きちんと非を認めるべきところで、あいまいな姿勢をとり続ければ、傷口を広げることになりかねない」と警鐘を鳴らすことも忘れていない。
残念な人たちの所業
傷口を広げ、そこに塩を塗り込みそうなのが、自衛隊の必要な体制を検討する「太平洋防衛構想室」の4月設置。小泉氏が28日、硫黄島島内視察後に記者団に語った(毎日新聞3月29日付)。軍事活動を活発化させる中国を念頭に「太平洋側の広大な海空域における防衛体制の強化は喫緊の課題だ」と強調そうだ。あんたらのその姿勢こそ、「誠に遺憾に存じます!」。
「地方の眼力」なめんなよ
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