JAの活動:今村奈良臣のいまJAに望むこと
【今村奈良臣のいまJAに望むこと】第69回 地域を支え、地域経済・地域農業も動かす直売所 ―第17回農林水産物直売サミット和歌山大会の紹介とその焦点―2018年11月17日
「農産物直売所は農業6次産業化のトップランナー」
このタイトルのもとで私は前述のように、第6分科会で「特別講座」として講演を行った。従来は全体会議で講演を行っていたが時間の制約があり充分な展開ができなかったので、分科会の特別講座として展開させていただくことにした。演題は「農産物直売所は農業6次産業化のトップランナー」としたが、以下述べるように広い視野に立って直売所の活動を行うように参加者の皆さんに説くことにした。
(1) いかに"net work"を作るか―サミットの役割
農林水産物直売サミットを開催する最大の目的は (1)ヒト (2)情報 (3)モノ にかかわるネットワークをいかに作り、参加者が運営している直売所の価値と役割をいかに向上させるか、というところにあると私は考えている。ヒトのネットワークは言うまでもないことであるが、交流や意見交換さらに討議を通じて貴重なものが得られると考えている。
次の情報ということは、多岐にわたるが、どういう活動をしているか、どういうノウハウを開発し実践しているか、つまり組合員・生産者や消費者との新しいつながりや地域の活性化をどのように工夫し開発しているか、など多岐にわたる分野と課題があると考えている。
さらに「モノ」のネットワークについては近隣地域の直売所との「モノ」の交換やモノ作りの技術の交流あるいは遠隔地、例えば北海道や東北の寒冷地の直売所と和歌山のような温暖な地域の直売所との間の農産物の交流・販売というようなことを通じてネットワークをいかに作るか、というような課題である。これまでの16回にわたるサミットで、次々と新しい多彩なネットワークが生まれてきているが、是非とも今回のサミットを通じて多彩なネットワークを作り上げていただきたいと念願する。明日へのエネルギーが必ず生まれてくるものと思います。
なお、第18回サミットは、山形県鶴岡市を拠点に来年の10月下旬に開催する予定です。
(2) 私の食料・農業・農村政策への基本スタンス
いまから18年前に、私は政府の農政の基本政策を策定する「食料・農業・農村政策審議会」の初代会長に就任した時に、新たに制定された「食料・農業・農村基本法」の精神とそのすぐれた内容を踏まえて、特に農業・農村に生き、それぞれの地域で活躍されている皆さんを念頭に置きながら次のような講演を行った。
1. 農業は生命総合産業であり、農村はその創造の場である。
2. 食と農の距離を全力をあげて縮める。
3. 農業ほど人材を必要とする産業はない。
4. トップ・ダウン農政からボトム・アップ農政への改革に全力をあげる。
5. 共益の追求を通して私益と公益の極大化をはかる。
この5項目はいうまでもなく新たに制定された「食料・農業・農村基本法」にうたわれた精髄を私なりにかつ農村・農民の皆さんにも分かるようにその核心を述べたものである(その詳細な記録は、平成22年度『農業白書』394貢に記録されているので関心のある方は読んでもらいたい)。
さらにいま一つ在任中に実現したのが、「中山間地域直接支払制度」の創設であった。これは解説するまでもなく、いまでも中山間地域の農村・農民の皆さんに歓迎され、活用され、喜ばれている施策である。
しかし、これはこの制度実現の20年前に、私は『補助金と農業・農村』(家の光協会刊、第20回エコノミスト賞受賞)の中で、"Rural Development Fund"(農村整備基金)の構想と提言を行っていたものの、20年の歳月を経てやっと実現したものであった。中央の農政を改革することは、まことに容易でないとこれまで痛感してきたが、いまこそ、このサミットに参集され直売所活動などを通じて新しい地域興しを推進されている皆さんの力により農政改革と合わせて「地域創生」(政府の言う「地方創生」ではない)に取り組んでもらいたいと念願している。
(3)「地域創生」への新戦略とその実践を
私はかねてより、地域の皆さんの英知と総力を結集して、別図に示したような「5ポリス構想」を全国各地の農村で実践し、実現してほしいと提言し熱望し各地で説いてきた。
ポリス(Polis)とは、ギリシャ語源の都市あるいは拠点という意味であるが、あえてこういう表現にしたのは、政府の言っている言葉や旧来から常用されている言葉は手あかにまみれて新鮮さに欠けていると思うので、このような新たな表現でもって皆さんに考えてもらい実践し、実現して欲しいと考えたからである。
5ポリスとは、図に示したように、「農業の拠点」、「食の拠点」つまり"Food Polis"がその中心になって、Agro Polis、Eco Polis、Medico Polis、そしてCulture Polisを作り上げ、元気づけ、地域全体が新たな活力を産み出すように新たな活動の路線を地域に作りあげようではないかという問題提起である。是非とも、この私の提案を受け止めて頂き、それぞれの地域で新しい路線を作り上げていただきたいと熱望しております。(なお、先進事例などの紹介などを踏まえた具体的展開は次回以降に述べる予定である)。
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今村奈良臣・東京大学名誉教授の【今村奈良臣のいまJAに望むこと】
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