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特集:女性に見放されたJAに未来はない JA全国女性大会

2020.01.23 
提言:上野千鶴子 女性を生かさない農業に未来はない!一覧へ

ムラは今も「男の世界」 女性はとっくに変化
上野千鶴子 東京大学名誉教授

 昨年の東京大学の入学式の祝辞で上野千鶴子さんは、女子学生と浪人生を差別していることを指摘した。法律上は男女平等を唱えていても、現実は社会のさまざまな面で「差別」が残っている。まして農業・農村社会はいまだ「男の世界」といっても過言ではない。上野さんは「女性はとっくに変わった。変わるべきはオジサンたちだ」と言う。この指摘を男性たちはどう受け止めるか。

◆消滅可能性都市

上野千鶴子氏 農業が「三ちゃん農業(じいちゃん、ばあちゃん、かあちゃん)」と呼ばれるようになって久しい。多くの農家は女性によって支えられているのに、農家における女性の地位は極めて低い。わたしは富山県生まれ、女性の就労率が高いことで知られているが、だからといって、女性の地位が高いわけではない。近年では、財政学者の井出英策さんが書いた『富山は日本のスウェーデン』(集英社、2018年)という本が、炎上したことはご存じだろうか。持ち家率、ひとりあたり住宅の広さ、女性の就労率、女性の正社員比率、待機児童ゼロなどのデータから、県民の生活満足度が高く、福祉も充実した「日本のスウェーデン」だともちあげたところ、当の富山の女性たちが、とんでもない、と抗議した。女の働きがなければ夜も日も明けないのに、女に意思決定権はない。富山の女はよく働く。外に出て稼いでもくる。無職の妻は「働きのない女」と周囲の目に責められて、肩身が狭い。なのに、女には意思決定権がないのだ。

 わたしは地方の保健師専門学校で教鞭をとったことがあって、その後各地の保健所に散っていった教え子たちと、卒業後もつながりを持っているが、そのひとりがこう言った。「稼いでくる嫁さんは、婚家で大事にしてもらえるでしょ」と言ったときのことだ。「そんなことないんですよお」と口を尖らせて彼女が答えたのはこうだった。農家にとって田植えと稲刈りは年中行事のなかで最大のイベント。一家総出で取り組まなければならない。その日取りを、舅・姑が彼女に一言の相談もなく決めて、「この日は仕事を休め」と命じてくるのだとか。こんな大事なことにさえ、嫁の意思決定権がない。

 女性に意思決定権がないのは村寄り合いでもそうだった。寄り合いに出るのは男ばかり。女は裏方でお茶くみやまかないに走り廻る。村の行事や祭りごとでも同じ。男たちが宴会をやる背後で女は料理を仕込む。農村の女は、家の中でも外でも意思決定権がなかったのだ。

 こんなところ、出て行ってやる、と娘たちが農村を離れたのも無理はない。娘たちがそう思うより前に、その母親たちが、こんな思いを娘たちにはさせたくないと、農家へ嫁ぐことをすすめなかった。誰より母親たちが、農家の嫁の苦労を知っていたからだが、その母たちは、自分が姑になると嫁が仕えるのを当然視した。そんなところに嫁が来るわけがない。

 増田寛也さんが代表を務める日本創成会議が2014年に発表した「消滅可能性都市」のリストは、日本中に衝撃を走らせた。消滅可能とは、2010年からの40年間に20歳から39歳までの出産可能な年齢層の女性が半減するという人口予測にもとづいている。

 ほとんど自治体ごと消滅しそうな秋田県で、唯一「消滅可能性都市」に該当しない例外が大潟村である。大潟村といえば大干拓地に入植した大型機械農業の村、米の生産調整の嵐に巻きこまれて、政府から「青田刈り」を強いられ、それと闘った抵抗の村として有名だ。70年代に訪れたことのある現地を数年前に再訪したときには、女性の発言力は大きく、女性議員もふえ、後継者は定着し、そこに嫁となる女性が来ていた。農家世帯の所得も増え、村には活気があった。農業が食える産業になり、希望が持てるようになれば次の世代は育つ。

【写真】上野千鶴子氏(菅野勝男撮影)

◆農業委員と農協役員

 農村に変化を感じるようになったのは、90年代だっただろうか?各地で農業委員に女性が登場するようになった。その農業委員に就任した女性たちが、30年前には生活改善運動に取り組んだ若嫁会の女性たちであることを知って、感心した覚えがある。なるほど、若い時に声を挙げた女たちは、それから後の人生でも決して黙らないのだ、と。

 農業委員よりももっと壁が厚いのは農協である。世界経済フォーラムが毎年発表する男女平等指数では、日本は2019年に153カ国中121位と惨憺たる結果となったが、国会議員の女性比率は135位とさらに低い。衆議院の女性議員比率は10.2%、農協女性役員の比率は7.7%とさらに低い。それというのも農業委員が行政の任命制なのに対し、農協役員は組合員の互選で決まるからだ。そこにはオヤジの集まりである村寄り合いの伝統がねづよく残っていて、「女の出る幕」はないのだろう。

 農協は、ゆうちょと並んで日本最大の金融機関のひとつである。問題は、農協の口座が世帯単位でできていて、財布のヒモを家長が握っていることにある。農産物の販路を農協を通じてに限定したうえで、その売り上げを世帯の口座に一括で入金する。農業労働は一家総出で行い、妻や嫁の貢献なしには生産できないのに、金は彼女たちのもとに入ってこない。日本の法律には家族経営協定という制度があって、夫婦のあいだで収益を分配する契約があるが、これを知っているひとは少なく、ましてや実行しているひとはほとんどいない。だからこそ農家の主婦が外へ労働に出たときに、現金収入のかたちで目に見える家計への貢献ができたことを彼女たちは歓迎したのだが、それとて長い間世帯収入の中に組み入れられて、姑の管理下に置かれた。

 「家」制度は女の協力なしには成り立たない。かつて嫁だった女は、やがて家長の妻になり、夫を見送ったあとは跡取りの母になる。人生の終わりに戸主の母になるという「女の上がり」が待っていたからこそ、嫁の勤めに耐えたのだ。わたしはこれを「皇太后権力」と呼んでいる。

 いまでもこの世帯単位制はねづよく残っている。フクシマ原発事故の被災者に対する東電の補償金は、家族の人数に拘わらず、世帯主に一括して支払われる。受け取った男が、失意と落胆からその金をギャンブルに使ったとしても、止められない。またDV夫から逃げた妻には、補償金は届かない。貢献への対価も、損害への補償も、ひとりひとりに届くのがあたりまえだろう。

◆六次産業の可能性

 農業に未来はない、と考えて離農していった男女がいるいっぽうで、農業に希望を見いだして新規就農してくる者たちもいる。そのなかで各地の成功事例が次々に紹介されているのを見ると、ほとんどが六次産業の成功例である。六次とは一次+二次+三次の合計、すなわち六次産業。原材料を加工業者に提供するだけでは利益が薄いので、それに自分たちで加工と流通を加えて、付加価値を高めようというものだ。農業生産物を加工するという分野は、保存食から加工食、さらに調理や農家レストランまで「女の領域」だ。

 九州のある地方でこんな話を聞いた。特産物を加工する工場をつくろうとしたら、設備などに初期投資が2000万円程度かかることがわかった。農協に提案したところ、オジサンたちが取り合わない。そのくらいならいっそ、と町長選に出て当選した女性がいる。町で設備投資をして六次産業を興して、お金がまわるようになったら、かつて反対したオジサンたちがわらわらと寄ってきた、と。

 わたしが理事長を務めているWebサイト、ウィメンズ・アクション・ネットワークでは、食のジャーナリスト&プロデューサーの金丸弘美さんの「ニッポンは美味しい!」というコーナーがある。すでに16回に及ぶ長期連載になったこのコーナーは、六次産業のキーパーソンとなった各地の女性たちを掘り起こしてレポートしてもらうもの。今までに登場したのは、十勝のじゃがいも農家の妻、村上千華さん。保存・管理を徹底することで、最適の状態のじゃがいもをレシピ付きで消費者に直接届けることで生産物の通年出荷を可能にし、その結果通年雇用を生み出した。都市近郊農家と首都圏のレストランをつないで販路を開拓したさいたまヨーロッパ野菜研究会の福田裕子さん。周防大島で地元産の果物を使って年間7万人が訪れる瀬戸内ジャムズガーデンを経営している松本匡史・智明さん夫妻など。

 WANは理事長以下100%無償で活躍するボランティアに支えられている。りっぱに原稿料をとれる記事を書いてくださる金丸さんに、タダで書いてください、と無謀なお願いをしたのはわたしである。無茶ぶりをしたわたしに、金丸さんは「いやあ、女性に焦点を当てると見えないものが見えてくる、やってよかった」と言ってくださった。各地をまめに歩き回っている金丸さんの取材対象は、これまでほとんどが男性だった。妻やパートナーは傍にいて黙っている場合が多かったが、直接女性に聞くと「女のひとの話の方がおもしろい」そうだ。

 そりゃそうだろう、各地には創意工夫、智恵と力にあふれた女性たちがいっぱいいる。このひとたちが、のびのびと力を発揮できるようになったら、農家も変わるし、農業も未来のある産業になるはずだ。

 女性を生かさない農業に未来はない! ここに、「企業」を入れても、「地域」を入れても、「日本」を入れてもよいだろう。女はとっくに変わっている、今や変わるのはオジサンたちの番だ。

(うえの・ちづこ)1948年生まれ。京都大学大学院社会学専攻博士課程退学。京都精華大学人文学部教授を経て東京大学文学部助教授、教授。東京大学名誉教授。NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。

〇WAN http://wan.or.jp/


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