発電と営農を両立 荒廃農地再生にまちづくりも 市民エネルギーちば2023年3月30日
千葉県の外房、匝瑳(そうさ)市を拠点に活動する(株)市民エネルギーちばは、農地を基盤に太陽光発電と営農を両立させるソーラーシェアリングによる"同時二毛作"を実現している。細いパネルと丈の高い支柱が特徴で、作物の生育に必要な光と大型機械による作業性を同時に確保。不耕起栽培を基本とする有機農業で荒廃農地を再生につなげ、売電の一部を地域づくりの組織の活動資金に拠出するなど、まちづくりにつなげている。
麦・大豆 パネル細く日照確保

3~4mの高さで空間の広いソーラーパネル施設
東京から東へ70km余り、匝瑳市の飯塚・開畑地域。40年以上前に国営事業で山を削って造成した農地が広がる。80haに及ぶ農地のうち6ha余りが、不耕作として長年放置され、一部では不法投棄のごみの山になっていた。
いまここは、20ha余りの農地に太陽光発電のソーラーパネルが並び、市民エネルギーちばの活動拠点になっている。ソーラーパネルは、一般に普及しているものよりも細く、支柱が高く、パネル間の間隔が広い。このため太陽の光が通りやすく、パネルの下は明るい。下から見上げるとパネルより空の空間が広く地面では麦が青々と育っている。
遊休地解消も
非常時に役立つ電源にも
太陽光発電の普及で、農地にソーラーパネルを設置するところが増えており、農地を利用できるのが利点だが、固定する支柱の土台(架台)の部分は建造物となり、農地法上の一時農地転用の対象になり、農業委員会の許可が必要だ。それを除いた部分は農地として営農に利用しなければならない。こうしたソーラーパネルによる営農型太陽光発電は、農地の維持が可能なことから再生エネルギー活用の一方法として普及している。
農水省によると、このような営農を継続しながら発電する営農型太陽光発電のための一時農地転用件数は、平成27~令和2年度で3474件で、下部農地面積は872ha。毎年100件ほどのペースで増えている。
農機使える支柱間隔 強風にも強く
しかし、実情は発電効率を優先し、畳あるいはそれ以上の大きなパネルをぎっしり並べるケースが多く、日照不足からくる生育不良、パネル下の空間での作業性の悪さなど、営農に支障が出ている。山林や原野ならともかく、農地にパネルを設置する場合、地域平均収量の8割以上を確保しなければならないことになっている。しかし実質的には電力の確保と営農の両立は難しく、農水省の調査によると、営農に支障が出たところは全体の2割近くあり、うち収量の減少が7割に達する。
一方で、遮光の影響を受けにくい作物を栽培し、農地の管理に手を抜くケースもあり、パネル下でほとんど生産活動が行われていないケースも少なくない。また、パネルが低く支柱の間隔が狭いと、大型機械の利用が難しく、とくに高齢化した農業者にとっては営農上の障害になる。
農業生産が肝
この二つの問題を解決するため、市民エネルギーちばは、幅の小さいパネルを使い、間隔を広げた。同社が設置したパネルは幅が36cmと細く、厚さ(外側のアルミフレームの部分)は3~4cmほどの超薄型タイプ。高さは畑地の場合3・2mで、作業機が大型になる水田では少し高く4mを超える。支柱(パネル)の間隔は4・2mほどで、アタッチメントが2mほどなので、往復すると種まきや刈り取りがちょうどできる幅になっている。
もともと植物の光合成にとって、太陽光の直射は必要なく、"木漏れ日"程度で十分なものもある。それにも関わらず、"野立て"と言われるソーラーパネルの設置方法は、山林や原野を前提に設計され、幅の広いパネルを並べ立てたものが多い。このため光が入らず、パネルの下は草木のない裸地になり、近年、水害や山崩れの原因になって問題になっている。
発電を優先すると、どうしてもパネルの密度が高くなり、営農に障害が出やすいが、市民エネルギーちばは、細身のパネルと高い支柱でこれを解決した。代表取締役の東光弘氏は、「発電と営農は一体で"同時二毛作"を目指す」という。つまり農地を基本に太陽光を発電と農作物でシェアするというわけだ。

パネルオーナーや地元農家らによる不耕起大豆の収穫体験
幅の狭いパネルは風にも強い。2019年、千葉県で大きな被害を出した2度の台風による強風でも被害はなかった。大きなパネルだと雨だれによる土壌流亡があるが、この防止にもなる。また適度な遮光は真夏の炎天下の農作業の軽減にもつながる。
同社の太陽光発電は、もともと2011年の東京電力福島第1原発事故をきっかけに始めたもの。2013年から千葉県内の環境NPOを中心に立ち上げ、翌年、資本金90万円でスタートした市民や農業者出資の会社で、環境に配慮した農業がコンセプトとなっており、地中の二酸化炭素の排出量を抑えるため、不耕起栽培による麦、大豆に挑戦している。パネルのオーナーは延べ100人ほどで、オーナーには年に1回、リース料を支払う仕組みとなっている。自然エネルギーと農業を組み合わせた同社の事業は都市部から人を呼び込み、地域に人の流れを生み出している。
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