「カギ握るのは消費者」「資材高騰の中で活用を」 「みどり戦略」めぐり報告・討論 農協研究会主催2022年9月5日
「みどりの食料システム戦略(みどり戦略)」をめぐり、今月中にも国の基本方針が公表されるのを前に、農水省の担当者やJA組合長、大規模農家などが制度のポイントや課題などをめぐって報告するとともに議論を交わす研究会(農業協同組合研究会主催、農協協会協賛)が9月3日、東京・千代田区でオンラインも併用して開かれた。

みどりの食料システム戦略をめぐる報告・討論が行われた農業協同組合研究会の研究会(3日、東京・千代田区)
みどり戦略をめぐっては、2030年の目標が設定され、 9月中には国の基本方針が公表されるなど、実践段階に入っているが、政策当局と現場の農業団体、生産者との認識の温度差は決して小さくないとされている。
冒頭、農協研究会会長を務める谷口信和東京大学名誉教授は、「このテーマで研究会を開くのは3回目となり、日本の農業、日本社会のありかたに大きな影響をおよぼす重要な政策についての話と理解してほしい。また、昨今の日本農業の厳しい状況とも密接に関連しており、厳しい時代に差し掛かっていることをこの場で共有したい」と挨拶した。
地域の状況に応じたステップで取り組みを
会場では、はじめに農水省みどりの食料システム戦略グループ長の久保牧衣子氏が、「みどりの食料システム戦略の実現に向けて」と題して報告した。
この中で久保氏は、持続可能な食料システムの確立に向けて国際的機運が高まる中でみどり戦略が策定された背景に触れたうえで、制度のポイントを説明。2050年目標として化学農薬50%低減、化学肥料30%低減などの目標を掲げているが、もう少し身近な目標が必要との意見を受けて、2030年までに化学農薬10%低減、化学肥料20%低減という目標を設定し、これを生産だけでなく、調達・加工流通・消費と食料システム全体で変えていくことが肝になると強調した。
また、急に農薬の使用をやめるよう強いるものではなく、より持続性の高い農法の転換に向けたチェックポイントを作成し、肥料・農薬の過剰使用の点検や他の産地で実践されている技術の導入を勧めるなど、地域の状況に応じて3段階のステップが設けられており、できるところから取り組んでほしいと呼びかけた。
資材高騰の中、交付金など活用を
さらに今月中に国が基本方針を公表することを受けて、都道府県の基本計画づくりが進むことや環境負荷軽減に取り組む生産者などへの融資・税制措置が講じられることを具体的に説明した。最後に久保氏は「みどり戦略をつくるときに現在の化学肥料の高騰は考えていなかったが、これほど高騰するとやはり国内資源を活用する方も増えると思う。せっかくの戦略なのでぜひ税制措置や交付金を活用してほしい」と呼びかけた。
消費者の意識醸成へコンソーシアム創設へ
続いてJAぎふの岩佐哲司組合長が「都市~中山間の多様な地域農業を抱えたJAの取り組みと課題」 と題して報告した。
岩佐組合長は、有機農業への取り組みを進めていくうえで、生産者には手間がかかるといった意識の問題、消費者には値段が高いという意識の問題があると指摘したうえで、「それでも消費者にはおいしいものを食べるとともに農業を守りたいという思いもあると思う。その思いを醸成したい」と語った。
そのうえで有機農業に必要な堆肥づくりに向けて、地元の素材をいかに組み合わせるか検討を進めていることを説明するとともに、消費者の意識の醸成に向けて、今月中に消費者も含めたコンソーシアムを創設し、地域内外の関係者と一丸となって取り組むことを説明した。で岩佐組合長は「適地適作というが、やはり消費者が望むものを作らないと地域で農業を応援してもらえないと考え、コンソーシアムを立ち上げたいと考えた」と強調した。
さらにこのコンソーシアムを通して、「農業を理解していただき、農薬をどう使用していただくかも理解していただく。農業を守るためには消費者が一緒にならないといけないと理解してもらい、准組合員になっていただく流れを作りたい」と目標を述べた。
成功の可否は「消費者が本気になるかどうか」
埼玉県川越市の大規模農家で、元JA全国農協青年組織協議会会長の飯野芳彦さんは、「都市近郊多品目露地野菜経営はみどり戦略にどう向き合うか」と題して報告した。
飯野さんは、江戸幕府が400年前に江戸の人口を支える野菜作りを進めるため、川越市を含む広大な土地を開墾したことが今の農業につながっていることを紹介し、毎年、落葉した葉っぱを地域ぐるみで集める重労働の「くずはき」をして質のいい野菜作りを続けていると語り、「現在、農地から得られる富は過去の蓄積であり、現在の私たちの農地への施しは未来への蓄積です」と強調した。
そのうえでみどり戦略について、「まず消費が重要であり、消費が動かなければ生産しません」と、成功の可否は消費者が本気になるかどうかにかかっていると指摘、「安定的な供給には価格と消費の担保が絶対に必要です」と訴えた。
さらにみどり戦略の目標達成には、生産者の努力より生活者の教育が必要だと話し、「学校教育を食育という観点だけでなく、文化や経済の観点から考えることが必要です」と強調。また、飯野さんらのように400年も質のいい野菜作りのため農地を守り続ける伝統的な取り組みを保護する施策がみどり戦略に欠けていると厳しく指摘した。
先進的な事例の横展開も
このあと報告者や会場の参加者らも交えた討論や質疑応答の時間が設けられた。飯野さんが指摘した食育の重要性について久保氏は「教育が大事であることはその通りで、みどり戦略を作成した直後に事務次官が文科省に出向いて要請をしている。一歩踏み込んで教育現場で進めたいと思う」と述べた。
また、有機農業に先駆的に取り組んできた参加者が「苦労してこれまで有機農業に取り組んできた人たちを生かす方策こそ実現しやすいのではないか」と指摘したのに対し、久保氏は「いままで頑張ってきた方の横展開を図る方が早いという指摘はその通りで、地域の交付金を利用してうまく横展開を図り、周知をはかりたい」と答えた。
(報告や討論の詳しい内容は6日から掲載します)
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