農政:時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す
(71) TPP参加で美しい棚田は守れない2013年3月8日
・6項目は同じ重み
・党の決議の意味
・「前のめり」に懸念
(1)「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、交渉参加に反対する。
(2)自由貿易の理念に反する自動車等の工業製品の数値目標は受け入れない。
(3)国民皆保険制度を守る。
(4)食の安全安心の基準を守る。
(5)国の主権を損なうISD条項は合意しない。
(6)政府調達・金融サービス等は、わが国の特性を踏まえる。
いうまでもないが、これが自民党が昨年12月の衆院選挙で掲げた選挙公約である。
◆6項目は同じ重み
(1)「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、交渉参加に反対する。
(2)自由貿易の理念に反する自動車等の工業製品の数値目標は受け入れない。
(3)国民皆保険制度を守る。
(4)食の安全安心の基準を守る。
(5)国の主権を損なうISD条項は合意しない。
(6)政府調達・金融サービス等は、わが国の特性を踏まえる。
いうまでもないが、これが自民党が昨年12月の衆院選挙で掲げた選挙公約である。この公約を信じて自民党に票を投じた有権者も多かったであろう。農村票を獲得できたのは、自民党は民主党とちがい、TPPに反対していると農村の人に信じさせたからだともいえる。
だから、2月12日に出されたTPP交渉参加に関する政府統一見解が、このなかの(1)の項目だけを取り上げた「『聖域なき関税撤廃』を前提にする限り、TPP交渉に参加しない」であったのに対し、自民党の外交・経済連携調査会は、交渉参加判断は政府の専権事項であることを考慮しつつなお、「議院内閣制の下、政府と政権与党は、常に双方、緊密な連携を堅持して、その責務を果たさなければならない」と明記した上で、公約に掲げた6項目は全て同じ重みを持つ事項であり、6項目すべてを「当然遵守すべき」とし、首相にその旨を伝えたのである。安倍首相も、この時は「了解した」と答えていた。
◆党の決議の意味
が、オバマ大統領と会談後の安倍首相の言動は、TPPについては「聖域なき関税撤廃」はTPP参加の前提ではないことを大統領との会談で確認したとして、TPP参加へ前のめりになっているように見える。
この前のめりの言動に、自民党の外交・経済連携調査会の先生方も心配になったのであろうか、2月27日、“守り抜くべき国益を認知し、その上で仮に交渉参加の判断を行う場合は、それらの国益をどう守っていくのか、明確な方針を示すべきである”とする「TPP交渉参加に関する決議」を行っている。そして“守り抜くべき国益について…確認”しているが、農業関連では「政権公約に記された6項目関連」の(1)、(4)として次のように「確認」した。
(1)農林水産品における関税―米、麦、牛肉、乳製品、砂糖等の農林産物の重要品目が、引き続き再生産可能となるよう除外又は再協議の対象となること。
(4)食の安全安心の基準―減農薬・食品添加物の基準、遺伝子組換え食品の表示義務、輸入原材料の原産地表示、BSE基準等において、食の安全安心が損なわれないこと。
わが国が既存のEPAで関税撤廃をしたことがない農林水産品目は、タリフラインの数でいって834にのぼる(タリフライン数はコメで58、小麦・大麦で109、牛肉で51、乳製品で188、砂糖で81など)。これらが「引き続き再生産可能となるよう除外又は再協議の対象となること」を求めているのである。交渉参加をきめる前に、これは具体的にこうして守ります、という答えを政府に要求しているわけである。“最終的な結果は交渉の中で決まっていくものである”(安倍・オバマ会談後の「日米の共同声明」)というようなことでの誤魔化しは許しませんということであろう。自民党の先生方も言うことは言う、ということだろうか。
◆「前のめり」に懸念
それでも安倍首相のTPP前のめりの姿勢は、変わらないようだ。この決議が行われた翌日の2月28日に行われた施政方針演説は、“TPPについては、「聖域なき関税撤廃」は、前提ではないことを、先般オバマ大統領と直接会談し、確認いたしました。今後、政府の責任において、交渉参加について判断いたします”と述べるにとどまっている。党の決議が具体的に“農林産物の重要品目が、引き続き再生産可能になるよう除外”を求めたことに全く答えようとはしていない。“議院内閣制の下、政府と政権与党は、常に双方、緊密な連携を堅持して、その責務を果たさなければならない”とは安倍首相は考えてはいないのだろうか。
“日本は瑞穂の国です。息をのむほど美しい棚田の風景、伝統ある文化。若者たちが、こうした美しい故郷を守り、未来に「希望」を持てる「強い農業」を創ってまいります”
と施政方針演説では語っている。「強い農業」でどういう農業を考えているのか定かではないが、巷間で言われる高生産性農業が念頭にあるとしたら、それでは“美しい棚田の風景”は維持できないだろう。“若者たちが…美しい故郷を守り、未来に「希望」を持てる”農業に是非ともしてもらいたい。が、TPP参加がもたらすのは、逆の事態であることを強調しなければならない。
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