農政:薄井寛・20大統領選と米国農業
救済金支払の実績を強調した党大会でのトランプ演説-農務省が明らかにした「補助金漬け」の農業実態【薄井寛・20大統領選と米国農業】第10回2020年9月8日
米国南東部ノースカロライナ州シャーロット市の会場とワシントンのホワイトハウス等を結んで開催された共和党全国大会(8月24ー27日)で、トランプ大統領は同党大統領候補に正式指名され、その受託演説を行ったが、農業・地方政策について言及することはなかった。
「(補助金で)農家はうまくいっている」
共和党は新型コロナ禍のために政策綱領を党大会へ提案できず、その代わりに「あなたのために闘うプレジデント・トランプ」と題する重要政策リストを党大会で採択した。これには雇用増、新型コロナ撲滅、中国依存の終焉など11分野・53項目がかかげられたが、農業・地方政策は含まれず、具体的な政策は今後の選挙運動を通して明らかにされることとなった。
ただし、前回選挙でのトランプ勝利に貢献した農家や地方の岩盤支持者に対し、大統領は党大会の企画にさまざまな工夫を凝らしてその熱烈な支持を訴えた。例えば、数名の農家や地方有権者に対しトランプ政権の実績をたたえる演説の機会を提供し、大統領次男のエリック・トランプ(トランプ財団副社長)には次のような話しをさせた。「発言の機会もなく、侮辱されたり、批判されたり、忘れられてきたような人びとのために私の父は闘ってきました。アメリカ人の日々の食卓を十分な食料で満たすため、朝から晩まで働いてくれる私たちの農家のために父は今後も闘っていきます」。
しかし、大会初日の8月24日夜、全米の農家を意識しながら発したトランプ大統領のメッセージほど率直かつ明快なものはなかった。53分を超えたその演説の冒頭、経済の回復ぶりを強調する流れのなかで大統領はこう述べたのだ。
「経済は急速に良くなってきた。農家もうまくいっている。なぜなら、私が中国に対して我が国の農家へ280億ドル(約3兆円)を"払わせた"からだ。(米中貿易戦争で)中国が米国の農家を狙い撃ちにしたためだ。だから、私は農家のために(その分の救済金として)280億ドルを"勝ち取ってやった"のだ。(2018年、実際には米国政府が払った)120億ドルと(19年の)160億ドルだ。これで農家はうまくいっているのだ。米国の農家はそのおかげで、パンデミックのなかにあっても、食料供給の仕事で頑張ってくれているのだ」。
この大統領演説を"補足"するかのようにパーデユー農務長官は党大会最終日の8月27日、「農家向けコロナ禍救済金の追加支給をまもなく発表する」旨を明らかにした。その額は少なくても140億ドル。4月24日に支給が開始された160億ドルの農家救済金第一弾にほぼ匹敵するほどの規模だ。岩盤支持の離反を食い止めるためなら、まさに"?なりふり構わず"の補助金バラマキである。
4年前の3倍以上に膨れ上がる農家への政府直接支払
一方、9月2日に農務省が公表した「2020年農業所得予測」によると、全米の純農業所得(表の注参照)は1027億ドル(約10兆9000億円)、19年より22.7%増える。この額は農畜産物価格が好況を呈した13年以来の高水準だ。
しかし、20年の純農業所得を大幅に回復させる要因は販売収入の増加ではない。救済金などの政府直接支払が急増するためだ。9月2日現在の予測で、今年の農家向け政府直接支払は372億ドル。昨年比66%増、オバマ政権最終年(16年)の130億ドルの2.9倍だ(表参照)。しかも、10日前後に公表される前述のコロナ禍追加救済金を足せば、今年の政府直接支払は、メディアの指摘通り米国農政史上、最高水準へ達する。
前出の農務省予測では、コロナ禍による輸出と国内消費の低迷により20年の農畜産物販売収入(全米トータル)は前年比3.3%減(畜産酪農産物8.1%減、農産物1.0%増)。この減少分を巨額の救済金が穴埋めし、純農業所得は22.7%も増える。これが米国農業の実情なのだ。
米中貿易戦争によって農産物価格が下落した2018年以来、米国農業は著しい「補助金漬け」の状態に陥っている。大幅に価格が回復しないかぎりこれから抜け出すのは困難だ。コロナ禍救済金などが無くなれば、米国農業が農業危機に陥るのは必至だとの見方さえ出てきている。逆に言えばこの実態にこそ、現役大統領にとっては農村の岩盤支持層の離反を食い止めることのできる"すべ"が存在しているということだろう。
他方、中西部の農業州などでは8月末から新型コロナ感染者数が再び増加へ転じているにもかかわらず、デモ隊の暴徒化問題が選挙の重大な争点に急浮上するなか、接戦州でのトランプ支持率は回復する傾向さえ見せている。こうしたなかで、挑戦者のバイデン候補が農家への補助金バラマキを批判するのは容易でない。農業州での接戦をものにするのがいっそう困難になるからだ。
バイデンは「補助金漬け」に代る新たな農業・地方政策をどうアピールできるのか。一方、トランプの「バラマキ戦術」は最終的にどれだけ効果を発揮するのか。今後の重要な注目点だ。
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