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特集:自給率38% どうするのか?この国のかたち -食料安全保障と農業協同組合の役割

2018.10.29 
世界穀物戦略 食糧・水危機に備えよ(1)【柴田明夫・(株)資源・食糧問題研究所代表】一覧へ

 世界の穀物価格は近年は落ち着きを見せているが、増える人口をまかなう農地と水の制約は強まっている。それを見越して国家として食料戦略を明確に打ち出す国もある。食料をめぐって世界はどう動いているのか。資源・食糧問題を長年、ウオッチしてきた柴田明夫氏が分析した。

◆不安定化する世界の食糧事情

 世界の穀物市場ではここ数年、なにもかもが記録ずくめとなった。米農務省(USDA)が10月に発表した2018/19年度(18年後半~19年前半)の需給報告によれば、世界の穀物生産量は25.62億tで史上3番目の豊作となる(図1)。この結果、足元の在庫量は5.90億tに積み上がった。6年連続の豊作が続いたことで、2007年~2014年にかけて高騰していた穀物価格も、2015年以降は落ち着いている。これら数字をみる限り、食糧問題はすでに解決されたかのように見える。しかし、安心はできない。世界の食糧市場が一段と不安定化していることを見落としてはならない。

【図1】世界の穀物生産・消費&期末在庫率の推移(米農務省2018.10.11)

(図1 上のグラフをクリックすると大きな画像が表示されます。)

 
 1つは、世界の穀物消費量が26.18億tとなり、2年連続で生産量を上回り過去最高を更新し続けていることだ。世界の穀物消費量は1990年代後半には18億t台で推移していた。しかし、今世紀に入ると、消費量は人口増加率を上回るペースで増加し、毎年のように過去最高を更新し続けている。中国、インド、インドネシア、ブラジルなどの新興工業国で、経済成長に伴う所得の向上により食料消費が増えているためだ。
 所得が増えると「1人当たり食料消費量」が増え、直接穀物を消費する段階から乳や肉、卵を消費する段階へと移ってゆく。1kgの豚肉を生産するには7kg、牛肉では11kgの飼料が必要(ただ、現在は飼料効率が良くなり数字は低下)であり、飼料用需要を飛躍的に拡大させる「需要ショック」ともいえる現象が生じている。実際、世界の穀物消費量26億tの約半分は家畜のエサなのである。旺盛な食糧需要に生産が追い付かず、足元の穀物市場はますます不安定化しているといえるのだ。

 

◆懸念される「自然の劣化」

 生産サイドにも不安がある。急増する穀物消費に対して、これまでのところ生産も拡大傾向にはある。しかし、それは増減産を繰り返しながらの拡大であり、干ばつや洪水など異常気象の影響を受けやすくなっている。気になるのは、今世紀に入って世界的な農業開発ブームが起こり、開発のフロンティアが急速に拡大していることだ。その特徴は、世界的な食糧の商品化であり、装置化、機械化、情報化、農薬肥料を多投する化学化、バイテク化(生物工学)による供給力の飛躍的な拡大である。言わば、農業の工業化であり、脱自然化であり、普遍化、単作化(モノカルチャー)でもある。
 開発のフロンティアが限界地(マージナルランド)へと広がる中で、温暖な気候、水、肥沃な土壌、多様な生物といった、これまで希少性と関係のなかったものが希少性の性格を帯びつつある。食糧も、太陽の光と土と水があればいくらでも再生産できたが、いまや「自然の劣化」が懸念されるようになってきた。その象徴が地球温暖化に伴う異常気象の常態化および水資源の制約である。
 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は2014年の第5次報告書で、「地球温暖化の進展で穀物生産量が減少し、世界的な食糧危機を招きかねない」と農業生産への影響を強く警告。2018年10月には、「現状の温暖化ガスの排出ペースが続くと、世界の平均気温が産業革命前に比べて1.5度上昇する」とした初の報告書を採択した。温暖化の被害を防ぐには温暖化ガスの排出を今世紀半ばまでに「実質ゼロ」にする必要があるとした。

 

◆食糧増産は可能か

【図2】世界の耕地面積&森林面積 1000ha 国連食糧農業機関(FAO)は、2050年までに世界で必要な食糧生産量は、2000年(18億t台)の2倍(36億t)とみている。地球温暖化により気象が「極端化」し、作物の生育環境が大きく変化するなか、われわれは、農業の近代化により、さらに10億tの食糧増産を限られた土地と水の制約の下で、実現していくことができるのだろうか。
 国連の統計によれば、1960年の世界穀物生産量、収穫面積、単収を基準(1960=100)に、2016年まで56年間の指数推移をみると、穀物生産量は3.12倍になっている。この間、収穫面積は1981年までは1.15倍に増えたものの、その後は2016年で1.10倍と頭打ちになっている。世界人口が1960年の約30億人から2016年に74億人強へ2.5倍になったことから、1960年に21aあった1人当り収穫面積は、その後、減少傾向を辿り、足もとでは9.5aと10aを下回っている。
 これに対し、単位面積当たり単位面収量は2.82倍に上昇。すなわち、世界の食糧生産はもっぱら単収の増加によるものであることが分かる。これを可能にしたのは主に農薬、肥料の大量投入であり灌漑整備の拡大である。FAOによれば、世界平均の耕地面積1ha当り化学肥料(窒素、リン酸、カリ)使用量は、1960年の22kgから2012年には125kgと、この50年余りで5倍以上に増加した。
 なお、今世紀に入ると状況はやや異なる。図2はFAOの統計により1990年以降、2015年までの世界の耕地面積と森林面積の推移をみたものである。これによると、この25年間で耕地面積は15億2338万haから15億9350万haへと、7012万ha拡大している。特に、この耕地面積の拡大現象は2010年以降起こっており、穀物価格の高騰(=世界的な農業開発ブーム)を映したものと思われる。一方、森林面積は41億2826万haから39億9913万haへ、1億2913万ha減少している。FAOによれば、森林消失の半分強が農用地造成によるもので、残り半分弱は都市開発や自然荒廃による消失と推測されている。

(図2:出所)FAOより筆者作成

 

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