農政 シリーズ詳細

シリーズ:インタビュー 日本農業と農協のあり方を考える

2017.04.18 
【民進党衆議院議員・玉木 雄一郎】食と農、地域を守る誇りを持つ一覧へ

多様な地域特性
活かした農政を
聞き手 ◆ 東京農業大学教授・谷口 信和

 農協法が施行されて70年。評価はいろいろあるが、日本の農業そして地域や暮しに果たしてきた農協の役割は大きい。
しかしいま、そうした現実を無視して安倍政権によって農協に対する「改革」という名の攻撃が行われている。
そこで本紙では、これからの日本農業と農協のあり方を各政党のトップの方に聞いてきた。
今回は、玉木雄一郎民進党衆議院議員(党幹事長代理)に、谷口信和東京農業大学教授がインタビューした。

◆トランプ出現は世界史の転換か

 谷口 トランプ氏の米国大統領就任は、世界史の転換だと私は思います。世界経済を主導してきた先進国のこれまでの政策体系の相当な部分を否定する要素を色濃く持っています。過激な発言も「選挙のときだけ」だと思われていたのが、大統領になってもけっこう実行しています。こうした傾向は、時代潮流としてEUや先進国全体を巻き込みつつありますが、そのなかで日本だけは「どうなっているんだ」という疑問がありますね。

民進党衆議院議員・玉木 雄一郎 玉木 私は「トランプが勝つ」と公開の場でも言ってきました。西海岸や東海岸のエリート層や豊かな人たちではなく、長い間グローバリズムのマイナス面に閉塞感を感じていた中西部の農業や石油採掘、従来型の自動車産業に携わる人たちが、8年前に黒人のオバマ大統領を誕生させ、今回はトランプ氏を支持した原動力とみています。こうした社会的な背景に注意深く目を向ける必要があります。そういう意味で、トランプ氏はWTOなど戦後秩序を大きく変える存在になるかもしれません。
 いま注目しているのは、20世紀には貿易の自由化を進めるほど輸出入の貿易量が増えましたが、21世紀に入ってからは自由化の度合いを上げても、貿易量が増えない傾向が顕著にみられるようになってきています。その原因は、自由化がある程度進み、追加的に得られるメリットが減じてきていること。自由化することのメリットよりも貧富の格差というデメリットが拡大し、世界全体ではプラスに働かなくなってきているのではないかと私はみています。だからこそ、単に自由化を進めるだけでなく、世界全体の社会のあり方についてきめ細かく目配りすることが求められる時代になり、そこにトランプ氏が現れたのではないでしょうか。
 いま世界の最大の問題であるテロを生み出すのは貧困だといえます。貧困問題はかつては南北問題でしたが、いまは、先進国でも自国内に低賃金労働を求める分野が存在する一方で、途上国でも一部に富が集中し貧富の格差を拡大しています。だから単に米国中心に自由度を上げていくのではなく、公平性や公正性に配慮した新たな貿易のルールを日本が主導してつくり、アジア・太平洋から世界に広げていく構想力が試されています。

◆日米交渉で牛・豚・米で厳しい要求が

 谷口 日米経済対話はどうなりそうですか。

 玉木 米国がTPPを離脱し、今後は二国間交渉が求められます。それは相互主義であるFTAではなく、非常に偏りのあるものとなり、国会承認されたTPPを土台に、さらにその先をどうするかという話になると思います。豪州との関係で不利な立場に置かれる米国の牛肉と、日本の最大の輸入農産物である豚肉、そして従来から米国が市場開放を求めてきたコメです。米国の国内利益ファーストを考えれば、TPP以上の厳しい要求がくることは覚悟しなければなりません。その意味で、TPPを国会で強引に通したことは安倍政権の戦略ミスだったといえます。

 谷口 ところで、政治と農業の関係が希薄になっているように感じますが...。

 玉木 農業は、地方とか地域のありように非常に大きくかかわりますが、そうした思いが与野党含めて薄くなってきているのではないか。農村を背負っていると気概を持った議員が減ってきているのではないかと心配しています。

 谷口 「農村を背負っている」のはマイナーだという雰囲気が、国会議員に広がっているのではないですか。

 玉木 「農村を背負う」ということは、農村とか農業団体を守るという小さな話ではなく、日本が長年にわたって維持してきた国のありよう、国のたたずまいを守っていくことです。つまり、本当の意味での「保守」ですが、農業や農村と向き合うとき、その根底の心の持ちようが変化してきていると思います。

◆「強い農業」は疑問 営農の継続が原点

 谷口 政策は支持されないのに、政権は支持されているという矛盾に満ちた安倍政権に対抗していく軸は何ですか。

 玉木 私は3つの「L」を提案したいと思います。まずローカル(Local)、地方です。いまは政策が大都会中心になっています。例えば、公共事業に「社会資本整備総合事業」がありますが、交付先のトップは東京都、次が北海道で、その後は大阪、愛知、福岡と人が集中している都会に配分されています。地方には空家、耕作放棄地、鳥獣害という大きな問題がありますが、これらの問題は後まわしでもいいのでは、となっている。現場視点の政治を重視することです。
 次はリバティ(Liberty)、自由です。いまは何でも統制経済になっていて、金利も物価も賃金も株価も国がコントロールしている。本来、農協改革も民間の問題ですから、民間に任せておけばいいのに、なぜか規制を強化する。どう考えても矛盾しています。
 個人や民間が持っている自由な発想を阻害し規制するのではなく、その持っている能力を自由に発揮させ、活かせる社会づくりです。
 最後は、リブ・トゥギャザー(Live together)、環境との共生、近隣諸国との共生です。もともと日本人は調和や協調することが得意です。この複雑化・多様化した社会を生き抜く素晴らしいDNAを活かして、多様性を尊重した本当の意味での共生社会を築くことです。

  東京農業大学教授・谷口 信和 谷口 今後の日本農業について考えるときは、平坦部だけでなく、中山間地や条件のあまりよくない地域をも含めてトータルに考えることが大事です。そうするとそれは「強い農業」という路線と合うのだろうかという疑問があります。

 玉木 農業はそもそも強弱ではかるものではないので、「強い農業」には違和感を覚えます。大事なことは地方の多様性を尊重することです。日本には多様な地域があるので、その多様性を活かすべきです。私は、農政も農政局ごとに違っていいと思います。各種農業予算を、農業分野なら何にでも使える交付金化することで、地域が何に使うかを自由に選べる使い勝手のいいお金に変える。それで地域の多様性を活かすことができます。
 大事なことは国が指示・統制することではなく、農家と消費者との関係をどうつくるかです。イタリアには「ゼロ・キロメートル」運動というのがあります。日本でいえば「地産地消」で、できるだけ生産者と消費者の距離を縮めていくことで、地域で顔の見える関係になる。そして距離が縮むほど、心の距離も近づいていく、という運動です。そういう生産者と消費者の関係の中で、何をつくっていくのか、を考えるような農業に変わっていくことが大切で、国が指示することではありません。

 谷口 それは食と農業生産の原点の関係であり、もう一度その原点に帰るということですね。

 玉木 そうです。もう一つ最近心配しているのは、農政が産業主義に偏りすぎていることです。マーケット・メカニズムだけでは最適なモノが提供されないところにこそ、国家の政策的な関与が必要なのです。とくに営農継続可能な状況を国としてどう保障していくのかという議論が、いますっぽり抜けていますが、農政の原点であるこの問題は誤魔化さずに議論すべきです。
 「収入保険」が導入されますが、大事なことは、岩盤政策と変動をカバーする保険制度がセットになった「所得保険」があってはじめて安定的な営農継続が可能になるわけです。
 「岩盤」の高さは地域ごとに異なっていいと思いますが、恒常的なコストと収入の差を埋める岩盤政策の重要性が忘れられています。

◆農協人は覚醒し 決起せよ!

 谷口 「農協改革」についてはどう考えていますか。

 玉木 農協は民間団体ですから、自主性が全てです。JAグループが、地域社会を支える公共財としてのプライドをもう一度持ってもらいたい。不当な批判とか名ばかりの「改革」に対しては、自信をもって押し返して欲しい。もちろん時代に合わせて変わっていかなければいけないこともありますが、このままでは農協解体に向けてまっしぐらになると危惧しています。
 私は「農協のみなさん、覚醒し、決起せよ」と言いたい。もう一度、農家のために何をするのか、本当に守るべきものは何かという原点に戻ることです。その意味で一つ提案したいのは、ロゴマークを「JA」から昔の「稲穂と協」のマークに戻してはどうかということです。あのマークには食と農と地域を支えるのは自分たちだという誇りが込められていたと思うからです。

 谷口 民進党も頑張って欲しいですね。

 玉木 私たちはかつての自民党を凌駕するほど「野に出でよ、民と語れ」とやるべきですね。難しい政策を考えるのではなく、地域の農家の声を聞いて、その声を反映すればいい、そこにしか答えはないんですから。

 谷口 そのためには、民進党と農協が意見交換する場をつくって欲しいですね。

 玉木 全国キャラバンをして生産者や農協の人たちと対話を深めたいと思いますし、それを党全体の運動論として、私はやりたいと思っています。

【インタビューを終えて】
 政治家とお話ししてこれほどさわやかな気持ちになったことは余りない。
 世界史の現状評価から始まって、かつての農協のロゴマーク復活の提案に至るまで、話はよどみなく春の小川のごとく「さらさら」流れていった。その首尾一貫した主張の中に新しい政治家としての「体幹」の確かさを感じた。官邸主導型農政の一線をも超えて、規制改革推進会議暴走型農政へと傾斜しつつある中で、常識の分かる「健全な野党」連携が切望される。農協との対話を重視する玉木氏の活躍に期待したい。(谷口)

【略歴】
たまき・ゆういちろう 昭和44年兼業農家の長男として香川県さぬき市(旧寒川町)生まれ。63年高松高校卒、平成5年東京大学法学部卒、大蔵省入省、9年米国ハーバード大学大学院(ケネディースクール)修了、17年財務省を退職し、第44回衆議院議員選挙に立候補するが落選、21年第45回衆院選に立候補し当選、24年衆院選で2期目当選、26年衆院選で3期目当選。
現在、民進党幹事長代理、香川県総支部連合会代表。衆議院予算委員会委員、政治倫理審査会幹事。

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