大連の凛とした女性たち2015年6月29日
中国の大連へ2泊3日の小旅行をして、先週帰ってきた。
大連は、中国東北部の大都会である。戦前は日本の植民地で、アカシア並木の美しい町だったようだ。植民地経営の中枢をになった満鉄(南満州鉄道)の本社があった町でもある。
短い旅行だったので、いま、大連の人たちは、どのような暮らしをしているか、どんな生き方をしているか、を見てきたい、という漠然とした期待をもって行ってきた。
思わぬ収穫が、いくつかあった。その一つとして、大連女性の凛とした生き方を垣間見た。
大連の旅行記や随想は、日本で数多く出版されている。しかし、大連の人たちの生活や、心の襞にまで立ち入って、それを描写しているものは多くない。それは、著者が、かつての植民者だったり、その子弟だったりで、現地の人たちとは隔離した暮らしをしていたからだろう。
満鉄の職員の給料を、満鉄社史でみると、中国人の雇員と比較して、日本人の雇員は約4倍、社員は約7倍という隔絶した差があった(安藤彦太郎編「満鉄」1965)。
植民者たちは「上流社会」のなかで暮らし、現地の人たちとのつきあいを断っていたのだろう。彼らは「五族協和」「王道楽土」を、偽りの理念にした満州国の建設の中心にいた。そうして、満州農業移民の悲劇を生んだ。
◇
大連は清潔な町だった。ちょうど端午の節句の休日だったので、海辺の公園へ行ってみた。広い公園は、子供づれの人たちの屈託のない笑顔で賑わっていた。あたりには、チリ一つなかった。よく見ると、チリ集めの人が巡回していた。
町の中心部は、かなり広い部分に超高層ビルが林立していた。並木は、ビルの谷間に隠されて、小さくなっていた。しかもアカシアではなかった。アカシアは強風に弱く、特にビル風に弱く、倒れて交通の邪魔になるので、他の木に植え替えたという。これは残念なことだった。
かつての大連がそうであったように、町の中心部の高層ビルといっても、せいぜい3-4階建てで、その上を甘く薫るアカシアの高木が覆いかぶさる、という町並みを復活できないものだろうか。それには、周囲の農村部の生活環境と、そこまでの交通の整備が必要になる。
そうした社会こそが豊かな社会ではないか。
◇
夕食どきになって飲食店に入った。ここも家族づれで賑わっていた。
そこで筆者の目をひいたのは、店の隅にいた店員同士のやりとりである。お客へのサービスについての、やりとりだったようだ。上司の男性の言い分について、部下の女性は凛として一歩も引かなかった。ひそひそした声でもなく、大きな声でもなかった。しばらく続いたが、最後は上司が納得して引き下がったようだ。上司も女性の部下も爽やかな顔つきだった。近くでこっそり見ていた筆者にとって、印象に残る爽快な光景だった。
こうした光景を、日本では見たことがない。だが、大連では何度か見た。
◇
中国は、隅々まで男女同権が行きわたっているように思えた。その基礎は、働く人こそが大事だ、とする政治が支えている。だから、よほどのことがなければ解雇されないのだろう。
それだけではない。賃金は、最低賃金で保証されている。大連の最低賃金は、月額1300元である。もちろん男女の差別はない。
日本と比べよう。
日本の最低賃金は1時間で、780円である。中国は月額である。中国には人間をこま切れ扱いにする非正規雇用などないのだろう。
日本の最低賃金を月額にすると12万4800円になる。一方、1元は約20円だから、大連では2万6000円になる。日本の約5分の1である。だから、大連は日本の5分の1の貧しい生活をしているのか。そうではない。それは、机上の空論といっていい。
◇
バス運賃をみてみよう。東京は220円で、大連は1元、つまり20円である。だから11分の1になる。したがって、バス運賃の生活実感でみるとき、大連の最低賃金は、日本の最低賃金よりも多く、約2(11÷5)倍になっている。
同じことだが、次のようにいってもいい。大連では最低賃金で1300回バスに乗れる。だが、日本では約半分の567(12万4800÷220)回しか乗れない。残りの約半分の733(1300―567)回は、カネがないから、靴の底を減らして、てくてく歩いてゆくしかない。つまり、大連では日本の2倍の回数バスに乗れる。
このように、生活に必要不可欠なバスの運賃で、最低賃金をみると、大連では日本の2倍の豊かな生活が保証されている。それに加えて、解雇はない。
大連の女性が凛としているのは、ここに大きな理由があるだろう。
◇
女性が凛としているのは、大連だけではないだろう。農村を含めて、中国の全土に広がっているに違いない。中国は国民の大部分を占める働く人を、大事にする政治だからである。
それと比べて、残念だが日本は財界の一握りの金持ちを大事にする政治である。国民の大部分である働く人を大事にしない政治である。
しかし、そうした中でも、各地の農協女性部には、凛とした女性が大勢いる。彼女たちは、日本の政治をよくする希望の星だ、と思いながら帰ってきた。
(前回 中国の米は5kgで470円)
(前々回 小規模農家切り捨ての歴史)
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