連携による新たな事業創造2016年2月9日
コラム「先の先」について
農業協同組合新聞の2011年新年号で張トヨタ自動車会長、藤本東大大学院教授との鼎談で剣道の用語「後の先」「先の先」からみたJAグループの戦略論について語りあったことがある。「後の先」とは相手の動きに応じて変幻自在に技を出していく戦法であり、「先の先」とは常に攻める気持ちで先に技を仕掛けていく戦法である。我が国の農業、JAグループはこれまで「後の先」に拘り過ぎたのではないか。政局なり、行政の出方の動向を見極めて行動したために、常に守りに回る戦略になっていたのではないか。これからは先手を打つ「先の先」の発想が必要ではないか。このコラムではある程度のリスクを背負ってでも仕掛けていく事例、考え方を伝えていていきたいと思う。
「国家は辺境の地の興亡する歴史」に学べとの格言がある。国家の興亡は、辺境の地が生命線となって左右される。ローマ帝国、江戸幕府も、辺境の地から変革を迎えた。都市と農村部との経済格差が拡大するなか、「地域社会の活性化なくして国家の繁栄はない」との冷厳な歴史を見つめ直す時がきた。
日本には山辺、野辺、海辺といった「辺」の文化がある。「辺」のあたりを自然と人間が交流する大事な場としてきた。「野辺の送り」のように、祭祀も行われてきた。「辺」は生物多様性も最も豊かなところである。ボーダーあたりをいかに幅広く共有するか。「辺」の思想が広がることが求められている。近代社会は「効率化」を追求し、行政、学問、企業も縦割り社会になってきた。最近よく言われる「農商工連携」「産官学連携」も「縦割り社会」の是正の動きであり、「辺の文化」を考え直すことでビジネスチャンスにつながる。生産者・消費者も線引きするのではなく共有と交流の時代を迎えなくてはならない。
◆「連携の時代」大学も変わった
今、私はNPO植物工場研究会の特別研究員として千葉大学環境健康フィールド科学センターで勤務をしていることが多くなった。このセンターは古在豊樹前千葉大学長の先見性のもとに、学問の縦割りを排し、医学、薬学、工学、教育学、農学の領域横断型の学部間連携、産業界とのコンソーシアムによる産官学連携を通じて「植物工場」の研究運営、薬草の栽培と品種改良、自由診療による漢方診療所の開設、国立大学法人として初の鍼灸院の開設等ユニークな取り組みを進めている。
"医食同源"の風土をもつ我が国で、国民の健康の基礎である農業と医療は、経済性だけでは語れぬ社会的共通資本である。地方の活性化の核として、JAは医農連携、産官学連携、農商工連携から新たな事業を創業する時代がきている。
◆福島県JA東西しらかわの事例
JA東西しらかわはJAグループ初の本格的な人工光型植物工場の建設運営を開始した。昨年、復興庁の「新しい東北」先導モデルに「低カリウムレタス栽培方法、鮮度保持評価方法および表示方法、植物工場の特性を生かした市場開発」などをテーマに千葉大学、(独)食品産業技術総合研究機構、NPO植物工場研究会、中島肇法律事務所、(株)ジュリス・キャタリストとの共同研究事業として応募した。この事業は復興大臣から「被災地の元気企業40」のうち、成功事例5企業の一つとして顕彰状が授与された。今年は、顧客の望むテーラーメイド型の野菜の栽培を研究し、首都圏に焼き肉チェーンを展開している"牛繁"の全店舗にJAの植物工場産のサンチュを納入する協定を結び(10月26日)その模様はテレビ等で大きく報道された。 同JAの本年度の復興庁の先導モデルの取り組みは、牛繁ドリームシステム、デリフーズ、三井化学、三井化学東セロ、ジュリスとの共同研究事業として、三井化学グループの新たな鮮度保持技術を導入し、植物工場でのサンチュ生産から配送センター等を経由して顧客に至るまでの全工程の温度、保管管理の実態調査、官能評価を通じた鮮度保持体系の確立を目指している。
これらの事業はJA自らの経営資源だけでなく、他産業、大学等の研究機関の知見を結集した産官学連携、農商工連携事業となっている。将来、管内組合員、生産法人が「人工光型植物工場」を建設運営する場合にもJAが適切に指導できる体制構築への一つの事例でもある。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(167)食料・農業・農村基本計画(9)肥料高騰の長期化懸念2025年11月8日 -
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(84)グルコピラノシル抗生物質【防除学習帖】第323回2025年11月8日 -
農薬の正しい使い方(57)ウイルス病の防除タイミング【今さら聞けない営農情報】第323回2025年11月8日 -
【注意報】冬春トマトなどにコナジラミ類 県西部で多発のおそれ 徳島県2025年11月7日 -
米の民間4万8000t 2か月で昨年分超す2025年11月7日 -
耕地面積423万9000ha 3万3000ha減 農水省2025年11月7日 -
エンで「総合職」「検査官」を公募 農水省2025年11月7日 -
JPIセミナー 農水省「高騰するコスト環境下における食料システム法の実務対応」開催2025年11月7日 -
(460)ローカル食の輸出は何を失うか?【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年11月7日 -
「秋の味覚。きのこフェア」都内の全農グループ店舗で開催 JA全農2025年11月7日 -
茨城県「いいものいっぱい広場」約200点を送料負担なしで販売中 JAタウン2025年11月7日 -
除草剤「クロレートS」登録内容変更 エス・ディー・エス バイオテック2025年11月7日 -
TNFDの「壁」を乗り越える 最新動向と支援の実践を紹介 農林中金・農中総研と八千代エンジニヤリングがセミナー2025年11月7日 -
農家から農家へ伝わる土壌保全技術 西アフリカで普及実態を解明 国際農研2025年11月7日 -
濃厚な味わいの「横須賀みかん」など「冬ギフト」受注開始 青木フルーツ2025年11月7日 -
冬春トマトの出荷順調 総出荷量220トンを計画 JAくま2025年11月7日 -
東京都エコ農産物の専門店「トウキョウ エコ マルシェ」赤坂に開設2025年11月7日 -
耕作放棄地で自然栽培米 生産拡大支援でクラファン型寄附受付開始 京都府福知山市2025年11月7日 -
茨城県行方市「全国焼き芋サミット」「焼き芋塾」参加者募集中2025年11月7日 -
ワールドデーリーサミット2025で「最優秀ポスター賞」受賞 雪印メグミルク2025年11月7日


































