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食を問うなら土から2016年6月30日

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【菅野 芳秀(置賜自給圏推進機構常務理事・置賜の百姓)】

◆いのちの源

 私は山形県置賜地方の田舎町、長井市で暮らす百姓だ。わが家の後ろには朝日連峰が連なり、前には広々とした水田が広がっている。山があって村があって、水田がある。絵にかいたような農村風景だ。そこで息子と二人で農業をやっている。
 水田4.3haと1000羽の自然養鶏。田や畑の肥料はそのニワトリたちの醗酵鶏糞だ。ニワトリたちのエサにはクズ米や畑の余った野菜や草が与えられる。この循環の関係を大事にしている。
 わが家のニワトリたちは四面金網の開放鶏舎で暮らしているが、ローテーションに従って外に出る。外では太陽の陽射しを受けながらのんびりと羽を伸ばし、かけっこをしたり、虫を追いかけたり、草を食べたりして暮らす。時には柵を乗り越え、畑の方にも入り込んできて自給用の野菜を食べてしまうこともあるが、まあ愛嬌だ。
 ニワトリ達は土が大好き。鶏舎の外に出されたときは例外なく土をついばむ。砂浴びといって、パッパッと土を全身にかける。ニワトリの暮らしそのものが土と一体だ。
 ところで土と一体であるという点では、作物も、それを食べている人間も一緒だ。作物は言うまでもなく土の産物であり、その育った場所の土の影響を全面的に受ける。
 かつて山形県でキュウリの中から50年ほど前に使用禁止となった農薬成分が出て問題になったことがあった。県では早急に対策を講じ、当該農家に土を入れ替えるよう求めたり、作付けを中止するよう要請したりして事なきを得たが、肝心なことは有害成分が50年経っても、なお分解されずに土の中にあったということだ。
 そこにキュウリの苗が植えられて、実がふくらんで、汚染されたキュウリができたというわけだ。かつて、どこの県だったかは忘れたが、お米からカドニウムがでたこともあった。
 作物が土の中から吸収するものは養分、水分だけではない。良いものも悪いものも、可能なもののすべてを吸い込み、実や葉に蓄える。だから私たちは、作物を食べながらその育った所の土を喰っている。スイカやカボチャ食べながら、それらの味と香りにのせて、周辺の土を喰っているのと同じだ。
 土が汚れていれば作物が汚れ、それを食べて俺たちが汚れていく。その作物は、洗ったって、皮をむいたってどうなるものではない。何しろ身ぐるみ、丸ごと汚染されているのだから始末が悪い。
 堆肥・有機物が入れられることなく、化学肥料の連続投入で弱り切った土ならば、そこに植えられた作物の生命力は弱くなるのは当たり前だ。農薬の一層の助けも必要となる。弱った土には、生命力の薄い作物が育ち(見かけ上はともかくとして)、それを食べたわれわれもひ弱な人間になっていく。
 このように作物を通して私たちは密接不可分に土と結びついている。われわれそのものが土の化身だと言っていい。だからこそ思うのだ。食を問うなら土から問おうと。いのちを語るなら土から語ろう。健康を願うなら土から正そう。地域づくりの基本も土からだ。生きていく大本に土があるのだ。
 土はいのちの源。すべてはここから始まり、ここで終わる。われわれの一生が土に依存し、土を食べて暮らしていくのであれば、その土を、より豊かにしよう。食べることのできる土を守ろう。その上に種を蒔こう。農業の基本、いのちと土と農の基本がここにある。

◆   ◇

 さて近年、「企業の参入」、「攻めの農業」、「成長産業としての農業」と、さまざまな言葉が飛び交っているが、この「農業の基本」を踏み外してはいないだろうか。
 TPPとて同じだ。もし協定が締結されるならば、無関税の作物群が一斉に日本市場に入り込んでくるだろう。日本国民はさまざまな国の土を食べるようになっていくということだ。それがどのような土なのかは誰も知らない。健康を願う人々にとって危うい時代が始まっていく。
 国内の農業政策も国づくりも、食と農に関する限り経済や市場まかせではなく、「いのちと土と農の基本」から組み立て直さなければならないと思う。今さらと言われようが、なんといわれようが、愚直にこの基本にこだわって行く。農家にあっても、この姿勢がいっそう大事になって行くと思うのだが如何なものだろうか。

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