花産業の苦境の一因は生け花人口の減少【花づくりの現場から 宇田明】第63回2025年7月3日
花の消費が減りつづけています。
総務省の家計調査によると、二人以上世帯の年間切り花購入額は、1995年のピーク時には12,822円ありましたが、2024年は7,684円と40%も減りました。
同様に、花市場の取扱高も1998年の5,675億円から2024年には3,477億円へと39%減っています。
しかも、市場取扱高には輸入切り花の約550億円が含まれているため、国産だけでは実質3,000憶円を下回っています。
なぜこれほどまでに花の消費が減ってしまったのでしょうか。
その主な原因のひとつが、生け花人口の減少です。
1960年代ごろまでは、「お茶・お花・裁縫」は女性のたしなみとされていました。
当時は、女性が職業に就く機会が限られており、結婚により家庭に入るのが一般的でした。
そのため、習い事の免状は嫁入り道具のひとつとして大きな価値がありました。
さらに、習得した技術を、近所の主婦や若い女性に教えることで、内職的な収入を得る手段にもなっていました。
こうした社会的背景があり、当時は、生け花の流派が3,000、生け花人口が1,000万人にものぼったといわれています。
総務省「社会生活基本調査」(2021年)によると、1996年の生け花を趣味とする人数が457万人ですので、1960年代の1,000万人という数字は決して誇張ではなさそうです。
この時代、花屋は生け花の先生を何人かかかえているだけで経営が成り立つといわれていました。
それが、2021年には生け花を趣味とする人はわずか142万人に激減しました。
しかも、深刻なのは、その60%が60歳以上で、40歳未満はわずか13%に過ぎないという高齢化の現状です。
生け花人口が減り、高齢化した背景には、以下のような要因が考えられます。
・女性の社会進出が進み、共働き家庭が増え、趣味の習い事をする時間的な余裕が減った
・月謝のほか、花材費や道具代、免状取得などの経済的負担が大きい
・趣味や娯楽の選択肢が広がり、生け花の優先度が相対的に低下
・住宅の洋式化により、床の間など花を飾る場所が減った
・室内で犬や猫などペットを飼うひとが増え、花を飾るスパースが制限
・指導者の高齢化や後継者不足により、教室の数が減り、アクセスが困難
・流派による形式やルールが難しそうで、初心者が入りにくいイメージ
・SNSなどによる情報発信が不足
これらの複合的な要因により、稽古用の切り花需要が激減しました。
1970年の農林省農蚕園芸局の「花きの生産状況等調査」によれば、花の消費金額は、店頭で販売される「店売り花」、ホテル、レストラン料理店への生けこみ、および慶弔用の花束、花輪、花かごなどの「仕事花」、生け花の先生を通じて販売される「稽古花」がほぼ1/3ずつを占めていました。
しかし、現在ではフラワーデザインを含む稽古用はわずか5%にまで落ち込んでいます。
生け花人口の減少は、単に切り花の主要顧客を失っただけではありません。
花を体験する機会が減ったことで、日本人が受けついできた切り花の「水あげ」や「手入れ」の方法、そして「身の回りを花で飾る」という習慣そのものが希薄になりました。
結果として、「切り花は手入れが大変」、「すぐ枯れるからいや」、「造花で十分」と考えるひとが増えてしまったのです。
一方で、最近、生け花に関心がある若い世代が増えはじめています。
現在でも10代の若者の5%が生け花に関心をもっており(総務省「社会生活基本調査」2021年)、さらに増える可能性があります。
その牽引役になっているのが今年で8年目の「高校生花いけバトル」で、高校生が即興で花をいけるパフォーマンスを競うユニークな競技会です。
流派や部活動、所属を問わず、花をいけたいという気持ちがあればだれでも参加でき、2人1組のチーム戦で競います。
5分の制限時間内に、用意された花材の中から自由に選び、花器にいけて作品を完成させます。
単に作品の出来栄えや美しさだけでなく、花をいける際の所作の美しさやパフォーマンスも評価対象となり、審査員と観客の投票によって勝敗が決まります。
地区大会を勝ち抜いたチームが全国大会に出場できるため、高校生たちは熱いバトルを繰り広げます。
静かで伝統的なイメージのある生け花・華道に対し、「高校生花いけバトル」は、まるでダンスのような躍動感あふれるパフォーマンスが高校生に響いているようです。
この取り組みは、高校生が楽しみながら花に触れることで、日本の伝統的な花文化を現代に合わせた形で継承するだけでなく、大会で使用する花材を通じて、高校生が生産者の思いや花の生産を知る貴重な機会を提供しています。
こうした若い世代の新しい動きが、国内の花生産の回復につながることを期待しています。
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