【スマート農業の風】(16)温暖化対応判断の一助にも2025年7月3日
夏の気温と稲刈りの最適化 積算気温
農業をしていると外気温が気になる。今年の夏も、あいかわらず暑いらしいがこうも暑さが続くと米の収量に影響が出る。いわゆる高温障害といわれるあれだ。あまり暑い状態は、米作りに好ましくないが、温度が上がらなさ過ぎても米作りには適さない。熱帯に近い場所が米の発祥地といわれているので、低い温度では米作りに適さない。とはいえ、日本の米作りは長い時間をかけ、日本の気候風土に合ったものを作り上げてきた。そのため、日本の気候風土で作ることができるよう品種選別・栽培法選別もおこなわれてきた。また現在は、品種改良により寒冷地でも米作りが可能な品種もある。そのため、北海道が日本を代表する米産地のひとつとなったのは有名な話である。このように、いろいろと米作りに特化してきた日本だが、ひとつだけ日本での米作りには欠点がある。それは東南アジアなどの米作地域とは異なり、日本では年1回の米作となることだ。
稲は、日中気温が35度、夜間気温が30度を超えると高温障害の発生リスクを抱える。高温障害は、稲の吸水が蒸散に追い付かず、水分不足で枯れてしまう障害のことを指す。加えて、蒸散を防ぐため葉の気孔が閉じ、光合成も停止するため生育が止まってしまう状態だ。さらに、夜間の高温は、稲の呼吸を増加させ、日中に生産したデンプンを呼吸で消費し穂に送り込むことができなくなる。それらは、登熟歩合の低下、乳白米(白未熟粒)の発生、胴割れ、米の収量低下の原因となる。高温障害の対策は、水のかけ流しによる地温低下が有効だが、近年の超高温化は稲の成長バランスが崩されやすく収量に影響する。生育状況を確認しながら、水と肥料でコントロールしたい。
積算温度は、毎日の平均気温を合計したものだが、ここではスイカの果実成熟を例に挙げる。スイカの成熟のためには一定の日数がかかるが、日数よりも毎日の気温の累積が重要だ。スイカは、開花日を基準に毎日の平均気温の積算が800~1,000度で成熟するとみられている。もちろん、品種や大玉・小玉のサイズにより積算温度は変わる。この積算気温は、快晴や曇り空の加減でなく、平均気温を加算していった温度で成熟度を判断する。
水稲の積算気温を用いた刈り取りの適期は、早生では 950~1000度、中生では 1000~1050度、晩生では 1050~1100度となる。併せて、籾全体が 85~90%程度黄化した頃を刈り取り適期としている。
いままでは、自分で平均気温を調べて積算温度を算出することが多かったが、アメダスなどの天気情報では20キロメッシュ(1辺が20キロの四角形の中に測定点がひとつある情報をいう)がほとんどで、山間地や丘陵地帯では微妙に差が出る。1キロメッシュの気象情報も提供が進んでいるが、特殊な条件の気象情報のため一般に手に入れるのは難しかった。
そこでJA全農の提供する営農管理システムZ-GISを紹介する。Z-GISは、Excelで作成したデータとほ場の形に合わせて作成したポリゴン(ほ場)をひもづけて管理するクラウド型の営農管理システムだ。これまで紙(白地図やノート)で管理していたほ場情報をデジタル化し、クラウドにデータを保管することで、ひとつのファイルを複数名で管理することができる。クラウドをかえすのでスマートフォンやタブレットからもデータを参照できる。管理項目は自分で設定できるので、すでにExcelデータでほ場管理をおこなっている場合はそのデータをそのまま活用し、電子地図付きのクラウドデータとすることができる。
このZ-GISには気象情報が搭載されていて、地図中心点の天気、気温、湿度、降水、風向、風速の情報を24時間予報(3時間ごと)・週間予報として確認できる。これらは、作業に天候が影響する農薬散布や草刈り時に風速予報を利用するといった使い方ができる。また、積算気温や積算降水量も確認できる。この機能は、積算期間を指定する際、出穂日を積算開始日に指定し、目標とする積算気温を入力すれば到達日の予測ができる。この情報から、ほ場ごとの収穫日を決定するための判断材料として活用ができるのだ。
またこの気象情報は、1キロメッシュ(緯度経度情報をもとに、1キロ四方で分割した地域メッシュで表した気象情報のこと、情報によっては高低差・地域環境なども考慮される)の気象情報のため、山間地や現地の特殊な事情などを考慮し、積算気温が表示される。そのため、ほ場が広範囲になりがちな、集落営農や大型農業法人の方々に広く活用されている。Z-GISは年間の利用料も安く多くの方にコスト面からも選ばれている。
最近では、AIを活用した様々な営農支援ソフトやシステムが発表されている。かなり便利なものも多くあるが、おしなべて利用コストが高いものが多い。コストのことを考えると導入時期をどこにしたらよいか迷うところも多い。日本の水稲栽培は多くの地域で1年に1回しかチャンスがないため、システムの導入には慎重になる。米の生産コストが注目される中、的確な収量で的確なコストの米作りが実現できるようスマート農業技術の導入にはコスト意識を加えて、考えていきたい。
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