【北海道酪肉近大詰め】440万トンも基盤維持に課題、道東で相次ぐ工場増設2025年10月31日
北海道酪農は2026年度生乳生産を増産計画とした。一方で「北海道版酪肉近」は2030年度440万トンベースで議論を進めている。増産の中で、最大の課題は生産基盤の維持と増産に見合う処理態勢・新規需要開拓だ。乳業工場増設が北海道東部に“偏在化“する中で新たな問題も生じてきた。(農政ジャーナリスト・伊本克宜)
酪農家1万戸割れで記者会見する中酪幹部、北海道大学教授、北海道の酪農家ら(2024年12月、東京都内)。
生産基盤維持は今後の北海道酪農にとっても大きな課題だ
■26年度407万トン目標も「需要」に課題
JAグループ北海道は、2026年度の生乳生産を最大407万トンとする方針だ。25年度目標402万3627トンから増産となる。
正確には「403万トン~406.6万トン+アウトイン外枠調整」の幅の中で、11月中に開く次回の道農協酪対で決める。微調整のアウトイン外枠は、数年前のコロナ禍に伴う需給緩和で生乳生産抑制期間中にやむを得ず系統外(自主流通)となった生産者を対象に、各JA別に申請できる別枠の増産分だ。前年度よりも系統へ出荷を増やしたい場合に活用できる「別枠」の位置づけ。今後決まる別枠の数量との合計を、全道の生乳生産量とする。
最大407万トンの意欲的な生産目標は、Jミルクの需給見通しを参考にした道内の生乳供給予測や需要が強いバターの安定供給、27年春からの乳業最大手・明治の新工場稼働が始まることなどを踏まえた。
■北海道酪肉近は生産目標維持も需要、離農歯止めに課題
農水省は今年4月、2030年度の今後5年先を見据えた新酪肉近をまとめた。それを受け、地域別の酪肉近策定が進む。最大の焦点は北海道版酪肉近の動向だ。北海道庁が示した道版酪肉近の骨子案を見よう。
最大焦点の2030年生乳生産目標は、現行計画で掲げる「440万トン」をベースに、「1頭当たり乳量を増やし、年間生乳生産量の増加を目指す」とした。乳牛1頭当たりの生産性向上を強調するということは、全体の規模拡大、頭数拡大が難しくなってきたことと表裏一体の関係にある。一方で加速する離農にどう対応するのか
全道の5年後の酪農家戸数は4500戸を目指すとした。道庁のデータで道内酪農家は既に5000戸の大台を割り込み4970戸。5年後に670戸減の4500戸にとどめるとしている。現状の1割減の計算だ。
ただ、中央酪農会議の生乳販売実績では8月の全国の指定団体受託戸数は9500戸割れで、ホクレン経由の受託戸数は4174戸にまで減少した。これに自主流通の大型酪農家を加えても、実際には既に4500戸を割り込んでいる可能性も否定できない。骨子案では酪農の離農を出来るだけ抑えるため、中小規模のつなぎ飼いの離農を最大限抑制するとともに、大型酪農家には搾乳ロボットを活用した規模拡大を促す。地域経済の維持のためにも中小規模の家族経営酪農を出来るだけ残す別途支援対策も必要かもしれない。
さらに、5年後440万トン達成には、着実な需要拡大を伴う「出口対策」の実現が欠かせない。需要のないものを増産すれば、結果的に乳製品在庫拡大、生産抑制というコロナ禍での減産のような「悪循環」に陥りかねない。骨子案では「関係者一丸となった牛乳・乳製品の消費拡大(ブランド力の向上等)に取り組む」と、需要前提の増産の方向を鮮明にした。
北海道産ナチュラルチーズの需要拡大は今後の道内酪農振興に欠かせない(首都圏のスーパーで)
■乳資源確保へ大手メーカー積極投資
2026年春策定の今後5年間を展望する「北海道版酪肉近」論議では、前述した需要拡大と生産基盤の維持を大前提とした生産目標とともに、増産の処理態勢の在り方も大きなテーマに浮上している。道内での大手乳業メーカーを中心とした相次ぐ牛乳・乳製品工場増設の動きを踏まえた。
道内の生乳需給調整を担う道内乳業工場の再編、集約の合理化の行方と課題は、今後の北海道酪農振興にも大きな影響を及ぼす。大手乳業の相次ぐ増設の表明は、都府県酪農の離農に歯止めがかからず地盤沈下が続く中で、原料確保、乳資源の確実な確保を求める乳業メーカーの企業戦略の表れでもある。主な動きを見よう。
〇北海道内の大手3社乳業工場新増設の動き
・明治→480億円投じ根釧地区新工場(最大50万トン、余乳処理、輸出も視野)
・雪メグ→460億円かけ中標津工場で高付加価値チーズ大幅増強、需給調整機能強化
・森永→147億円投じ恵庭市に牛乳新工場。LL牛乳供給でネット販売、輸出視野
※別途、都府県余乳処理で全酪連、全農、指定団体の福島での乳製品工場新設の動き
最大手・明治は480億円を投じ道東・中標津町計根別地区に年間最大処理量50万トンの大型乳製品工場を建設中で、1年半後の2027年3月から操業を開始する。明治HDの松田克也社長は「北海道の乳の価値を世界に広げていく工場となる」と強調する。乳たんぱくに付加価値を加えた新製品、イスラム圏輸出も念頭に「ハラル認証」、余乳処理など需給調整を担う明治の戦略的拠点の位置づけだ。
■雪メグはチーズで生乳需給安定化
2025年に創業100年を迎えた雪印メグミルクは、「攻めの戦略」を展開中だ。創業の地・北海道での一層のブランド力強化も目指し460億円をかけ既存の中標津工場の設備を大幅に増強する。ナチュラルチーズ製造拠点の拡充は、今後の需要動向をにらみ新たな高付加価値チーズ生産の青写真を描く。現在の脱脂粉乳過剰という構造的な課題にも対応し、乳製品の全固形分需要拡大で、生乳需給の安定化に貢献、酪農経営への支援にも役立てる。同工場で製造した原料用チーズを茨城・阿見工場で加工・新たな高付加価値チーズを製造する。生産の過程で発生するホエイパウダー処理設備の現状の3倍に拡大する。
森永乳業は輸出に照準を当てた。北海道恵庭市に、常温で長期保存が可能なロングライフミルク(LL牛乳)を中心とした牛乳類製品の新工場を建設する。飲用向けは都府県中心で、北海道は乳製品工場が多いが、都府県の酪農地盤沈下の中で、牛乳でも北海道の原料確保に動いた事例だ。LL牛乳の強みは保存性だが、今後拡大が見込まれるネット販売での電子商取引や輸出分野での新規需要開拓にも力を入れる。飲用牛乳工場再編でも明治が先行しており、既に2022年7月に120億円かけ同じ恵庭市に主力ブランド「明治のおいしい牛乳」を中心とした新工場を稼働している。
一方で、道東に集中した乳業工場増設の動きは、他の生産地から生乳を運ぶ輸送コストをどうするのか、特定地域への大型工場偏重は災害リスクも大きくなりかねないなど、今後の課題も浮き彫りとなってきた。
■全酪連、全農による乳製品新会社の意義
先の道内での乳業工場増設とは別に、国内の酪農問題は主産地・北海道と都府県の"均衡発展"と機能分担をどうするかが課題だ。こうした中で地盤沈下が進む都府県酪農の基盤安定へ具体的な対応に注目したい。
全酪連、JA全農など4生産者団体は10月、福島県郡山市に新たな乳製品会社「らくのう乳業」を設立した。系統主導で生乳需給調整機能強化へ具体的な動きだ。3年後には新乳製品工場が稼働する予定。酪農・乳業界の大きな課題である都府県での加工処理対応が、東日本地区で拡充する。
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