国産飼料でコスト削減 TMRと耕畜連携で 【広島県酪農協レポート・2】2025年10月31日
日本農業の再生には、地域資源循環と耕畜連携、すなわちこれまでの輸入飼料依存の加工型畜産・酪農を地域農業に足を下ろしたものに転換させ、家畜ふん尿の堆肥化で地域の農地への有機質肥料投与の本格化・オーガニック化をめざすことが不可欠である。
広酪の現地取材には、温泉川寛明代表理事組合長(76)、西中晃代表理事専務(65)、生産振興課の竹ノ内寛治課長補佐(48)のみなさんに対応いただいた。なお、取材には元JA三次組合長で、現在は(一社)農協協会会長の村上光雄さんにも同席いただいた。取材担当は山口和宏公立鳥取環境大学准教授と村田武九州大学名誉教授である。
 みわTMRセンター
みわTMRセンター
安くて良質なTMR飼料の供給で酪農経営を支える
西中 酪農経営の窮状打破のポイントは、生乳生産コストに占める飼料費をどう引き下げるかにあります。輸入に依存してきたトウモロコシや乾草の価格騰貴は、円安もあって高止まりしています。自給飼料割合を高めるほかありません。広島県内では、18酪農専門農協のうちの2農協、すなわち備北酪農協の「庄原飼料混合所」(1989年)と双三酪農協の「ミックスフィードセンター」(1990年)がありました。
1994年に設立された広酪は、これらをそれぞれTMRセンターと改称して継承し、2014(平成26)年には、「強い農業づくり交付金」を利用して、総事業費1億4800万円で、新生みわTMRセンターを竣工(しゅんこう)させました。庄原TMRセンターは製造を中止し、みわに統合しました。
TMRセンターの製造量は2024年には1万3749トンに達しています。最大製造量は1日当たり64トンです。2024年度末で組合員88戸のうち40戸の酪農家にTMR飼料を供給しています。製品は①「広酪TMR20WCS」がWCS用稲(Whole Crop Silage 葉茎と子実をいっしょに収穫してサイレージに調製した飼料)20%に輸入粗飼料(アルファルファ・スーダン)を加えたもの②「広酪TMR24WCS」がWCS用稲24%に輸入粗飼料(アルファルファ・スーダン)を加えたもの、さらに③「いねモロコシⓇS70」が、WCS用稲70%に輸入粗飼料(スーダン)を加えたものです。
WCS用稲は飼料用米専用品種の「たちすずか」と「たちあやめ」です。いずれも極短穂で150cmもある長稈(かん)多収品種です。①が大好評の定番製品で、夏場の乳脂肪率低下対策に優れています。②の「広酪TMR24WCS」は①の「広酪TMR20WCS」の特徴を生かしつつ、低コスト化を実現したもの、③の「いねモロコシⓇS70」は、トウモロコシサイレージの代替飼料としての利用が可能です。いずれも他者と比べると1kg当たり10円は安く、良質なTMR飼料を供給できていると考えています。

村田 原料のWCS用稲の生産に力を入れてきましたね。
西中 TMRの原材料の一部を輸入粗飼料からに置き換えることで酪農家の生産費を抑制しようというものです。WCS用稲の栽培面積は、県内の農業生産法人などとの5年間の契約栽培で、中山間地水田で2014(平成26)に開始した20.3haから、24年には65戸・合計213haに達しています。契約栽培では、収穫(刈り取り)作業を広酪が受託(10アール当たり3万4000円)し、1ロール当たり3500円で買い取るというものです。
安くて良質なTMR飼料の供給で酪農家の離農を食い止めたいというのが私たちの願いです。
酪農家にとってはTMR飼料の利用で飼料費を抑えるとともに、農場での飼料混合作業を省け、乳牛の世話に集中できるのが大きいのではないでしょうか。政府には、主食用米の増産をめざすことはともかく、WCS用稲の直接支払交付金(10アール当たり8万円)を削減するようなことはしてはならないと強く要望します。
山口 最後に温泉川組合長の「酪農家あっての酪農協だ」の思いをお聞かせください。
温泉川 酪農危機の現実のなかで、「酪農家あっての酪農協であり、われわれがここで動かなければどうするのだ」というのが私の思いです。広酪は、首相官邸で提出した「要望書」の末尾に、早急に実現してほしい課題を2点掲げました。
一つは、国民に牛乳・乳製品をリーズナブルな価格で提供したいという酪農業の「存続安定事業」の創設です。それは酪農経営コストの大半を占める飼料コストを抑制する施策であって、現在の「配合飼料安定基金制度」に国費を投入して、乳飼比費(生乳価格に占める飼料費の比率)を経営健全レベルの55%にまで下げてほしいという要請です。
いま一つは、小中学校の児童。生徒に夏・冬・春休みに「牛乳券」を給付してほしいという要請です。
◇
●集落の水田12haすべてでWCS用稲栽培
農事組合法人「清流の里ファーム庄原」の清水忠昭理事長
 農事組合法人「清流の里ファーム庄原」清水忠昭理事長
農事組合法人「清流の里ファーム庄原」清水忠昭理事長
広酪の提案に応えて、2013年から濁川川西集落の水田12haすべてでWCS用稲の栽培に取り組んでいます。米価の値下がり(当時)のなか、WCS用稲助成金8万円が魅力でした。法人組合員12戸の自家保有米は隣村の法人から買っています。
WCS用稲の単収は13~14ベールで県下平均の9ベールを上回っています。広酪への要望は、1ベール3500円のWCS用稲価格をもう少しあげてほしいということです。地力低下には堆肥投入量を10アールあたり1トンから2トンに増やしました。
加えて、近くの養鶏農家からの鶏ふんを投入するために撒布機を導入しようと考えています。農業機械が高騰しているので、かんたんには主食用米には戻れません。耕畜連携を奨励してきた国には、WCS用稲助成をしっかり続けてくれないと困ります。 
【県産牛乳の証~サンマーク】
広島で搾った生乳にはサンマークが表示されている。「サンマーク」は太陽と緑に恵まれた広島の大地に育った健康な牛から生まれた牛乳を意味する
【取材を終えて】
「めざすのは『豊かさ』・『健康』・『うるおい』の酪農」だとのスローガンを掲げて酪農危機と闘う広島県酪農協同組合の現地取材は驚きでいっぱいであった。牛乳の市場開拓でも、地域資源循環・耕畜連携でも、その計画性において、またその実行力においても抜きんでている。温泉川・西中両トップの指導力が明るい職場づくりを基本に全職員の意欲を引き出すことに成功していることが、組合員の同酪農協にたいする信頼を高めているのであろう。「耕種農家、酪農家の減少は食料自給力の停滞を招く!」、これを突破することに全力を尽くそうという広酪の取り組みに大いに示唆を得た取材でであった。10月10日・11日の2日間にわたる私たちの取材に全面的に協力いただいた温泉川組合長、西中専務、竹ノ内課長補佐をはじめ、関係者の皆さんに心から感謝申し上げます。(山口和宏・村田武)
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