【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(123)エンドレス「定量化」の行きつく先は?2019年3月15日
やや堅苦しい話だが、最近は全てにおいて「定量化」「数値化」が大流行である。率直に感想を述べれば、行き過ぎれば単なるデータに基づく理論無き実証に過ぎない…が、「定量化」「数値化」に躍起になる人々から見れば、何をとぼけた事を…という事になるのだろう。
大学のような世界にいると、社会現象をいかに客観的に見るかという訓練を毎日のように行う。社会には様々な構成要素があり、その要素間にも様々な関係が存在する。我々の日常活動はこうした無数の構成要素間のネットワークを介した相互作用の結果である。そこに自ら動的に参加するのではなく、研究者の多くはあくまでも観察者として客観的な視点を求められる。これは1つの大きな役割である。だが、現代社会では100%観察者で過ごすことはなかなか難しく、バランスを取ることには日々苦労している。
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さて、筆者が専門としている経営学は、その成り立ちを見れば、数学や天文学、物理学などに比べると歴史が浅い。そのため、自然科学の膨大な先人の遺産、つまり知識の蓄積を様々な形で適用し活用することが多い。実際、全てではないが、多くの場面で非常に有益である。
例えば、筆者が大学院時代に読んだ本にクリストファー・バートレットとスマントラ・ゴシャールが書いた『地球市場時代の企業戦略―トランスナショナル・マネジメント』(1990)という本がある。出版年を確認するために調べてみたところ、中古品でも1万円をはるかに超えており驚いた次第である。
この本の中に、解剖学・生理学・心理学という医学の例えが紹介されている。これは経営学の本だが、組織の構造を学ぶのは医学で言えば解剖学であり、組織がどのように機能しているかを学ぶのが生理学、そして、組織をどのように「動かすか」は心理学、という絶妙のアナロジーである。学部で経営学を学んだことの無い筆者には30年近くまえに学んだこのフレーズが今でも印象に残っている。いかにモノを知らなかったかをさらけ出すようだが、その後、この例えは様々なところで活用させて頂いている。
後年、大学教員になり、古い書物も読むようになると、社会や組織の構造と機能をしっかりと研究した先人達の足跡を数多く目にするようになった。その中に、例えば、自然科学における有機体を社会現象に当てはめて、社会形態学・社会生理学・発展の諸問題、という形でアプローチしたアルフレッド・ラドクリフ=ブラウンという人物がいる。有名なタルコッド・パーソンズよりも20歳ほど上で社会人類学者として知られている。恐らく、バートレットとゴシャールもラドクリフ=ブラウンからヒントを得たのだろうな、などと1人で納得していたことがある。
さて、このラドクリフ=ブラウンはひとつ興味深いことを指摘している。それは、社会システムの中における全ての構成要素は、十分な調和や内的整合性の下に協働しているということだ。言い換えれば、社会は全体として一つのシステムである以上、一見不要に見えても何ひとつとして不要なものは存在しないということになる。
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話を戻すと、「定量化」「数値化」は判断を放棄した人間にとっては非常に楽な管理手法であることは間違いない。人間社会における様々な営みの断片を、大根を切るように切り取り、それを数値化するのはMRIの断層写真の社会版に過ぎない。モノを考えずにこうした手法を適用していくと、何故、「定量化」「数値化」が必要なのかという本質を見失ったまま数値データだけを追い回す実証分析が氾濫する。そして、本来は必要なモノまで、数値が低いということで切り捨てることになりかねない。
そろそろ、我々は物事をしっかりと見つめなおしても良いタイミングなのかもしれない。何故、このようなことを記したかというと最近は大学でも社会人教育でも、成績評価において1点単位の差をつけることが大流行しているからである。「優」「良」「可」「不可」だけが大学の成績だと思っている方は、一度、子供さんの大学の成績評価を聞いてみたらよいと思う。隔世の感があるのではないだろうか。
肥満の目安であるBMIなどもそうだが、「定量化」「数値化」はエビデンスに基づくことは間違いないが、そこまで差をつけないといけない必然性は、対象によりけりであろう。恐らく本当に「定量化」「数値化」を必要としているのは、使用しているデータベースのシステムや自らの判断を放棄した管理者であり、当の人物ではないと考えるのが最も妥当なところなのかもしれない。手塚治虫の名作「火の鳥」に登場したロボット「ロビタ」が愛されたのは、人間に特有な適度な間違いや不満、曖昧さをロボットにもしっかりと残したからであるということをふと思い出した次第である。
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