【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(133)米国のコメ:UR合意から25年2019年5月31日
1980~90年代にかけ、「日米コメ戦争」とまで言われたコメをめぐる騒動があった。1986年9月にガット・ウルグアイラウンド(UR)が始まったが、日本のコメはUR交渉の焦点の1つであり、当時はコメの輸入をめぐって大議論が行われた。交渉は7年以上の時間をかけ、1993年12月の合意に至り、その後、現在でもこの合意に基づき、わが国は年間約70万tのコメを輸入している。
近年では農産物貿易が話題になる場合、食肉はよく話題になるが米国のコメに関する報道や論稿はめっきり少なくなった。若い世代にとっては既に歴史であり、経過を知る人も少ない。そもそもUR合意そのものが現在のほとんどの20代以下の人が生まれる前の話である。もしかすると、我々の米国のコメに関する認識もあの当時のままで固まっているのかもしれない。そこで、四半世紀を経た米国のコメ生産がどのように変化したかについて、米国農務省の資料をもとに簡単に紹介しておきたい。
UR合意後の1997年当時、米国のコメ生産農場数は9627であったという。それが、2012年には5591にまで減少している。多くの人が考えるように、農場数の減少は大規模化が進展しているということである。
当時の米国のコメ生産農場の平均収穫面積は328エーカーであったが、これが2012年には482エーカーに拡大している。1エーカーは0.405haであるから、平均規模の推移でみた場合、132haが195haに拡大したということだ。さらに、5591農場のうち、約半数が800エーカー(324ha)以上を収穫している。この間、収穫面積1000エーカー(405ha)以上の大規模農場の数は倍増し、全収穫量に占める割合は、1997年当時の約2割から約4割へと増加、代わりに1000ha未満の農場数は半減している。
コメの生産地域で見た場合、当時も今も全米生産量の4割以上を占めるアーカンソー州がNo.1であり、これに、カリフォルニア州、ルイジアナ州が続く。その他として、ミシシッピー州、ミズーリ州、テキサス州などでもコメ生産は行われている。
過去四半世紀を見ると、アーカンソー州とルイジアナ州のコメ生産農家の数はほぼ半減しているが、カリフォルニア州では微減にとどまっている。
※ ※ ※
さて、このコラムでは余り多くのことを記すことはできないが、いくつか興味深い点を述べておきたい。
第1に、当たり前のことだが、規模拡大に伴う「借地」の増加である。米国でも高齢化は進展している。リタイヤした農家は農地を売却するケースもあるが、多くは農業を継続する相手で信頼できる相手に貸出しする。コメ農場全体の2000年以降の傾向を見ると、自己所有している農地は概ね350~400エーカー(142~162ha)で大きく変化していないが、借地は約1000エーカー(405ha)から約1500エーカー(607ha)へと伸びている。大規模化の実態は借地による収穫面積の拡大という訳だ。
第2に、米国の大規模化は通常のコスト優位性の獲得というだけでなく、そもそも農地を借りることが以前よりも容易になってきているのではないかということが考えられる。言い換えれば、農地の賃貸を促進する何らかの制度上の変化や仲介業者の存在があるのかもしれない。これはあくまでも筆者の推定である。時間があれば詳細を調べてみたいところであるが本当のところはわからない。
第3に、先に述べたように米国で最大のコメ生産州はアーカンソー州である。しかしながら、州別の生産農場の平均規模を見ると、ミシシッピー州が約3200エーカー(1294ha)と最も大きく、アーカンソー州は約2000エーカー(809ha)、そしてカリフォルニア州では660エーカー(267ha)である。地域別の差も大きい。ということは、当然、経営の中身も大きく異なるであろう。
* * *
UR合意から25年、現在の米国のコメ産業とそれを取り巻く環境をもう一度、じっくりと見直してみることは、我が国のコメの将来にとっても重要な示唆が得られるのではないだろうか。この夏から秋の仕事のひとつにしてみるのも良いかもしれない。
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