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コラム:地方の眼力

【小松泰信・(一社)長野県農協地域開発機構研究所長】

2019.07.10 
【小松泰信・地方の眼力】「食料自給率」と「国民の理解」一覧へ

 「総理秘書官が、すごい力を持っちゃってるんですよ。総理にある政策を説明しようとしたら、秘書官が事前の聞き取りで『こういうのはダメです』と押し返してね。大臣の私が(自分の省に戻って)何を言おうと、官僚も『官邸がこう言ってますから』と引き下がっちゃうんです」と、秘書官の「威」が霞が関全域に及ぶことを毎日新聞(7月8日付、「風知草」)が伝えている。これが本当の、秘所秘書話。

◆自然の額縁

小松泰信(岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授) 日本農業新聞(7月8日付)で柴田明夫氏(資源・食糧問題研究所代表)は、世界が「気候大変動に伴う環境の限界」「グローバリズムの限界」「低コスト原油の限界」、という「三つの限界」に直面しているとした上で、我が国においては、さらに「人口減少」「高齢化」「大地震災害の懸念」「国家財政破綻」などが加わり、「どのように楽観的に見ても、......『低成長経済であり低エネルギー消費社会』とならざるを得ない」とする。
 そのため、「今後は、いたずらに経営規模を拡大し労働を粗放化するよりも、経営を内向きにして、それぞれの地方の『自然の額縁』の中で、稲作を核に畑作、果樹、畜産などを複合化し、そこに新技術を導入することで地域の農業・農村の再興、ひいては国土保全を目指す逆転の発想が必要」とし、「農林水産業の再興に重点を置いた『内側からの農業改革』」を説いている。
 もちろん、官邸農政とは真逆のベクトルである。

 

◆JAグループは「食料自給率の向上」を放棄するのか

 最近、JAグループの上級管理者研修会で「JAの経営環境」を講義する機会を得、今年3月に開催された第28回JA全国大会決議『創造的自己改革の実践~組合員とともに農業・地域の未来を拓く~』を読んだ。食料自給率の向上にかかる記述が一カ所しか見当たらないこと、そして「食料」という言葉さえ省略されていることには驚いた。
 取り上げられているのは、持続可能な農業の実現に向けた基本政策の確立をめざし、水田をはじめとした農地の活用・保全対策を説明したところ(21頁)で、次のように記述されている。
 「安定的な政策のもとで、その多面的機能を保持しつつ自給率・自給力の維持・向上をはかるために、JAグループは、水田フル活用ビジョンをもとに飼料用米をはじめとした非食用米や麦・大豆等の生産拡大をすすめるとともに、需要に応じた主食用米生産の徹底をはかります」
 常識からすれば、「『食』『農』『協同組合』にかかる国民理解の醸成」に継続して取り組むことを宣言した大会決議であるならば、「食と農」に少なからぬ責任を負うはずの農業協同組合が、38%という低自給率に危機意識を覚え、その向上に努力することを宣明すべきところである。にもかかわらず、「食料」という文言すら削り落とし、「食料自給率」という重要な言葉を貶めんとする扱いは、理解に苦しむ許しがたきものである。
 2018年6月時点の組織協議案には4カ所ほどで取り上げられていた。最終的に、なぜこのようなことになったのか、その疑問を解くヒントを、日本農業新聞が参院選に伴い、主要7党に実施した農政公約アンケートに基づく「食料自給率目標」の分析(7月9日付)が示している。それによれば、自民党は目標水準については「検討中」、公明党は「現行目標の45%維持」、野党全5党は「50%以上」と、それぞれ回答している。
 少なくとも第二次安倍政権の自民党からは、食料自給率向上の意欲が伝わってこない。自民党べったりのJAグループがその筋から指示されたのか、忖度したのか、いずれにしても歩調を合わせようとしたことは容易に想像される。真相がいかなるものであろうと、JAグループが「食料自給率の向上」よりも、「政権与党との良好な関係」を選択したことだけは確かである。
 そしてそれ以上に確かなことは、その程度のJAグループを国民は信頼しない、ということである。

 

◆誰と、何を、戦うおつもりですか

 日本農業新聞(7月5日付)によれば、全国農政連が推薦した、JAグループの組織内候補者の出陣式で、候補者は、「(政府の)規制改革推進会議による農協攻撃には納得できない。(この問題に)断固取り組むために、3期目に挑戦した」と決意を表明したそうである。「3期目の正直」とでも言いたいのだろうが、2期12年間に断固取り組めなかったカカシ議員に、「仏の顔も3期まで」と期待するほどの時間はないはず。
 飛田稔章同連会長は、「この決戦を絶対に勝ち抜かないといけない」と強調し、中家徹JA全中会長は「JAグループの存亡をかけた選挙。過去2回を上回る得票で、JAの力量を内外に(示そう)」と訴えたとのこと。
 このお二人、一体、誰と、何を、戦うつもりか。戦う相手を見誤っていることを隠さんがための力みにしか聞こえない。

 

◆エールと私怨

 中野剛志氏(元京都大学准教授)は、「JA全農ウイークリー」(2019年7月8日号)において、グローバリゼーションや時代の流れへの対応については、受け身ではなく「戦闘的」になるべきで、「ちゃんと戦っていくためには、農協だけでは力が弱いので......理念を共有するところと連携するのが重要」と、提言する。
 そして、「いよいよこれからは組合組織というのが大事になります。長いことバッシングを受けたので、もしかしたら自分たちはもういらない組織になるのではないかというふうな思いに囚われる方もおられるかもしれませんけど、時代はもう変わりました。それでも(農業・農協を)たたいている日本が遅れているだけで、早晩この人たちには限界が来ます。時代は大きく変わっていますので、むしろ、逆に重責になると思いますけども、ぜひ胸を張って、後進のために組合の理念とか、そういったものというのを伝え、強化」せよと、エールを送っている。
 JAグループが、このエールに応える、意欲、気力、そして知力を失いつつあるとすれば、この重責は担えない。
 武田砂鉄氏(ライター)は、笙野頼子氏(作家)との対談で、「私怨のようなものを、常におなかの中に蓄えておかないといけないと思っています。ムカつくものにムカつくと言うことが、権力者の思い通りにさせない態度につながる。忘れないということ。相手が望んでいるのが忘却だったら、まだ覚えているし、まだ言ってるし、まだ動いているぞ、と言い続ける。そこから変化する方法を見いだしていくしかない」(しんぶん赤旗、7月8日付)と、語っている。
 だから当コラムも、私怨も込めてこう言い続ける。
 「地方の眼力」なめんなよ

 

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