【熊野孝文・米マーケット情報】忘年会でわかった令和2年のコメの明と暗2019年12月24日
忘年会シーズンで、先週は毎日どこかの忘年会に参加する羽目になった。コメ業者の集まりでは、生産者から来年の動向を聞かれたりするが、どうしても悲観的にならざるを得ない。
それは留まることのないコメの消費減退のことが頭にこびりついているからで「毎年10万t減」という農水省の需給見通しが重く圧し掛かる。10万tと言えばちょうど岐阜県のコメの生産量と同等で、岐阜県1県分の消費が1年でなくなることを意味している。10年では100万tで、生産量が最も多い新潟県や北海道の生産量も消し飛んでしまうぐらいの数量になる。農水省の需給見通しに追い打ちをかけたのが総務省の家計調査で、10月の1世帯当たりのコメ購入数量は前年同月比89.3%になった。今年に入って毎月のように前年同月比割れを演じているが、1割以上も減るというのはオオゴトである。その一方でパンは前年同月比102.3%、麺は102.2%と増加している。人口減と高齢化で全体の消費が減るのはやむを得ない面もあるが、この数字だけ見るとコメの一人負け状態だと言える。
コメの需要回復をどうするのかは流通業界のみならず生産者にとっても最大の課題のはずなのだが、政策的には米価を維持するため供給量を減らす対策が最優先されている。政府備蓄米を2000tも落札している民間業者の中には年明け早々に行われる令和2年産政府備蓄米の落札価格は元年産に比べ60㎏当たり50円値上がりすると予測している業者もいる。その予測通りだとすると2年産米で確実に落札出来る価格は1万3880円になる。この業者は自県の優先枠だけではなく、一般枠でも落としに行く算段。なぜならそれが産地生産者のためにもなると判断しているからで、自社で契約、買受けして手持ち在庫することについては、そのリスクの大きさに「恐怖を感じる」とまで言っている。この見通しをウケウリにして、先週末に千葉県の営農組合や富山県の大規模稲作生産者らが都内に集まった席では、第一に政府備蓄米に売り渡すこと、第二に加工用米を契約することを強く勧めた。なにせこの集まりの主催者は金融機関に大変信用の厚いところで政府備蓄米が落札された時は、収穫前に落札数量分の代金を支払える能力があるため、生産者にとって大変なメリットがある。先行きのコメ代金が確保されることがかつてなく大事なことが認識されるというのが令和2年と言う年になると見ている。コメ業界にとっては在庫リスクをどう軽減させるのかが最大の課題になる年になるが、コメ業界外では敢えてリスクを背負って攻めに出るところもある。
大手食品メーカーの中には、フロンガス対策や耐震対策で自社工場群に340億円もの投資を計画して、実行し始めた企業もある。この会社はパックご飯も作っており、先週の記者会見で業務用向けパックご飯の販売が「倍増した」と発表した。業務用向けのパックご飯がなぜ売れているのかと言うと、中食・外食業界では人手不足と食品ロス解消のオペレーションが重要な課題になっており、追加炊飯するよりパックご飯を活用した方がロスが出ないというのがその理由。パックご飯の需要はカラオケ店や変わったところでは葬儀社でも増えているという。葬儀社はお供えとしてご飯を出すが、これもパックご飯に置き換わっている。直接この会社の社長に業務用パックご飯の感触について聞いてみると「まだまだ分母が小さいので」と謙遜していたが、業務用に特化した製品を出すことも計画にある。
元気があるという点ではなんと言ってもIT企業が筆頭。ドローンを使った直播栽培で水田の土の中に無コーティングの種子を打ち込んでいく画期的な機器を作った企業にどこまで出来るようになるのか聞きに行った。来年はドローンに飛行経路のプログラムを積んで自動飛行で種子を播けるようにする。種子を打ち込む面積は10cm四方で8粒から10粒で、打ち込む深さは5mmと言うことまで決まっている。5mmの深さに打ち込むためにはドローンの高度、回転式の射出機からの射出速度をコントロールすることはもちろんだが、その前に水田の水張の深さを測定しなければそうしたことはできない。なんと播種前にドローンが水田を画像解析してAIが学習しながら水の深さに応じて最適な速度で種子を打ち込んでいくことが出来るようにすると言っていた。取材に応じた執行役員も若かったが、衛星を使って農地の画像解析している会社の社長の歳を聞いたら「24歳」と答えたのでさすがに驚いた。
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(株)米穀新聞社記者・熊野孝文氏のコラム【米マーケット情報】
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