【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第91回 生産・生活に不可欠だった菰2020年3月12日
菰(こも)とは小さく束ねたわらを細縄で編んでむしろのようにしたもので、むしろよりもわらをたっぷりと使っているのでふかふか柔らかく、俵の主材料として、あるいは梱包、被覆に用いられるためにつくられたものである。だからこの菰(こも)を稲わらで編むことも縄綯いと同じくらい重要だった。

菰は俵編み器(「菰編み器」ともいうが、菰つくりの重要な目的が俵つくりなので、俵編みと呼んだのだろう、また俵編み台と呼ぶところもあった)という道具でつくる。やはり小屋で俵編み器の前にむしろを敷いて座り、左右の木の脚で支えられた1.5mくらいの長さの横木の4箇所に木のコマをつけた細縄を吊り下げ、その細縄で横木の上に乗せたわらを順次縦に織っていくというものであるが、これも言葉で説明するのは容易ではない。農業博物館などで現物を見てもらいたい。子どもの頃、これを編むのを見るのが面白かった。なお、前回述べた私の生家の莚編み機はこの菰編み機と原理が同じで、木のコマが多く、編み込むわらの本数が少ないというところに違いがあっただけだった。
野菜を主作物とする私の生家では、春先「温床」(野菜作農家の育苗用・促成栽培用として昭和初期に普及した簡易施設、これについては別途後に述べたい)の防寒・防霜のために夕方になると育苗中の「温床」の上に菰をかけて覆い、朝になるとそれをはがすという作業を毎日やっていたものだった(この「菰かけ」は子どもの仕事だった)。
また冬の防雪・防寒にも菰を用いた。家屋の周囲の必要なところに杭を打ち、その横木として竹や棒などを縄で杭に縛り付け、そこに菰を稲わらでくくりつけて屋敷を囲み、雪や風を防ぐのである。といっても私の生家の地域ではやっている家は少なかった。山形の中でも雪が相対的に少ない地域だったからではなかろうか。私の生家の場合は、裏口から外風呂と外便所への通路を今のようにして菰で覆うだけだったが、これは父の仕事、よくもまあうまくつくるものと感心して見ていたものだった。まともに雪や風が吹き付けないので本当に助かったが、春にこれを外すと、世の中明るくなった、春が来たと心が浮きたったものだった。
さらに樹木の防寒防雪のためにも菰が利用された。樹木の幹に菰を巻きつけて寒さや雪からまもるのである。
稲わらの幹に空洞があるために寒さが直接伝わらない、すぐに濡れない、弾力性があるという性質を利用して分厚く編んで保温に利用する、菰はまさに農家の知恵の産物ということができよう。
もう一つ、稲わらの空洞は菰に弾力性も付与するし、むしろよりもわらをたくさん使って分厚いので、菰は荷物の梱包にも使われ、都市部の住民や商工業でも使われた。とくに、大きなもの、重量のあるもの、気温の遮断の必要があるものの梱包や運搬に使われた。私の小さいころ、菰でくるんだ荷物をつけた荷車を町の中で何度か見たことがあるが、その昔は引っ越しのさいに不可欠だったとのことである。今でも大きな陶磁器には菰をかけて運ぶという話を聞いたことがあるが、どうなのだろうか。
今はもう菰は見られなくなり、その言葉も聞かなくなっているが、たった一つ「こもかぶり」という言葉で菰は生きている。
いうまでもなく「こもかぶり」は4斗入りの酒樽を菰で包んだものだが、お祝いのときなどにその樽の蓋を開いて酒をふるまうということでよく知られている。ただし、そのさいの「こも」は今は「薦」とも書かれ、「薦被り」というように書かれる場合が多くなっており、原料もマコモをを使っているとのことで、稲わらではないのが残念である。酒は米でつくったものだから、やはり稲わらを使ってもらいたいのだが。
話はもとに戻るが、菰は敷物や着物としても使われた。このことについては次回述べることにする。
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