Web上のコメ席上取引でわかった大きな可能性【熊野孝文・米マーケット情報】2020年5月19日
15日夕方5時半から8時までWeb上で米穀業者の情報交換会と席上取引会が開催された。Webを活用したコメの席上取引会が開催されるのは初めてのケースである。
Web席上取引会の参加者は関東の業者を中心に関西、東北からも参加を得て総勢37社にもなった。取引会を前に参加者全員から各地の情報を提供してもらうべく1社2分の発言時間を割り振って、途中質問時間を設け2回に分けて情報交換会が行われた。情報交換会では、東京や大阪の業者からコロナ禍の影響で、業務用需要の激減やキャンセルといった深刻な状況が伝えられた他、神奈川や埼玉の精米販売卸からは仮需の発生で4月上旬までスーパーへの白米納入に追われたが、現在はそれも収まった。ただ、家庭内在庫が増えたため連休後の納入数量は通常の7~8割に留まっている。産地からは各地の田植え進捗状況や作付品種の増減の概要や中国から輸入されている農薬や種子消毒の薬剤が入って来ず、生産面での影響も出ていることなどが報告された。
席上取引会では、はじめに主催者から「Web席上取引ルール」が示され、場立ち1人の他に画面上に表示されたエクセルの売り買い一覧表に売り人の社名や売り玉の産地・銘柄・年産・等級・数量・受け渡し条件、買い人の社名を記入する担当者を付けて、取引きが始まった。画面上では売り買い一覧表の右側に場立ちや売り声、買い声をあげた参加者の顔がアップされるようになっている。
場立ちが参加者に売り声、買い声を上げるように促すと、茨城の集荷業者が元年産と30年産米のみけん玉をフレコン条件で31本売り唱えた。これに対して千葉の精米卸が買い声を上げたが、売り買いの価格差が大きく、場立ちが双方に歩み寄りを求めたが、折り合いがつかず見送られた。次に埼玉の精米卸が茨城あきたこまち1等を置場条件で買い声を上げたところ、茨城の集荷業者が100円高で売り声を発した。買い人が6月末まで低温保管条件を付帯したところ売り人がこれに応じ成約した。この成約を口火に千葉、茨城のコシヒカリなどの成約が続いた。
売り買い玉で変わったところでは、コシヒカリの篩い目別中米の売り玉もあった。その品位に対して買い人から質問があったが、結局、中米は現物を見ないと品位の価値が分からないので後日サンプルを提供することになった。
新潟コシヒカリの売りでは、6月末置場1等建値の売り物が関西の業者から出た。これは新潟コシ先物市場で当限6月限位買い玉を建てている業者の売りで、先物市場で現受けして渡すにしても、先物市場では売り方勝手というルールがあり、1等が渡って来るのか2等が渡って来るのか事前には分からないため、1等建値で2等は取引所格差を条件にするとした。すでに新潟コシの当限6月限は1万5000円を割り込んでいるが、それでも買い声が出なかった。
一カ所に集まった通常の席上取取引会では、場立ちがホワイトボードに売り買いの内容を手書きで示して進めて行くが、Web上では売り買い一覧表にあらかじめ参加者の社名や想定される産地銘柄が入力されており、売り人が声を発すると直ぐに一覧表に表示されるようになっており、参加者全員がすばやく情報を共有できる。また、荷姿や受け渡し条件など細かい条件についても画面上でやり取りが出来るため通常取引きに比べなんら遜色のないテンポと内容で取引きが進められることが分かった。しかも参加者は自社事務所から参加できるため関西や東北など遠方の業者にとってはメリットが大きい。
取引会終了後、参加者から緊急事態宣言が解除され、通常取引が出来るようになったからもWeb席上取引を行って欲しいという要望が寄せられたことから、この会では専用のパソコンを購入して、通常取引会でもそのパソコンを会場に置き、会場に来られなかった会員社も参加できるようにすることを決めた。
こうしてコメ業界で初めて行われたWeb席上取引会が終了したが、コロナ禍は一面では、働き方改革が急激に進み始めたと見ることも出来る。実際、オフィスを閉鎖してテレワーク主体の組織へ変化させて企業もあり、仕事のやり方がこれまでとは違って来始めた。おそらく緊急事態宣言が解除されても、この変化は続くものと予測される。コメの取引きに関していえば、政策的要因もあり、旧態然とした取引形態が今日まで変わらなかったが、はからずもコロナ禍で革新的な取引形態が生まれた。と同時にその可能性は極めて大きく、このWeb取引きが主流になって、コメ取引・流通のそのものを変える可能性を秘めている。
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(株)米穀新聞社記者・熊野孝文氏のコラム【米マーケット情報】
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