【浅野純次・読書の楽しみ】第53回2020年8月26日
◎赤木雅子+相澤冬樹『「私は真実が知りたい』(文藝春秋、1650円)
森友学園文書の改ざんを苦にして自死した近畿財務局の赤木俊夫さんの夫人が、長い沈黙を破って夫の遺書を公開し、自らも文章をもって世間にアピールを開始した書。書名どおり「真実が知りたいだけ」という出版の動機は身につまされるものがあります。
元NHK記者で森友事件を追っていた相澤冬樹氏と、時に協力し、時には別々にかつての上司や同僚をつかまえて質問を浴びせます。でもほぼ全員が正面から答えようとせず、こそこそおろおろ、曖昧な返事に終始します。
やましいところがなければしっかり釈明すればいいのに、男らしくないことこの上なし(男らしくは使わないほうがいいですが、男だけの社会なので)。
結局、財務省も近畿財務局もタテ社会で、佐川理財局長はじめ上のほうは自分の出世しか頭になく、上も下も忖度だらけ(これも結局は出世でしょうが)。実際、赤木夫妻を犠牲にして上司たちが出世していったことが具体名で示されます。
ここには日本の官僚社会の堕落が鮮やかに示されています。もちろん興味本などではありませんが、最後まで興味深く読み続けました。公文書を軽視するのは日本の悪い伝統で事件を風化させないためにもとても重要な記録本だと思います。
◎庭田杏珠・渡邊英徳『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』(光文社新書、1650円)
戦前戦中の写真といえば白黒でした。でもそれでは過去のお話で済まされてしまうということで、東大生である著者は高校時代からカラー化する試みを始めたそうです。
具体的にはAIを使って可能な範囲でまずカラー化し、衣類の色や花の色などは関係者の証言などによって確定していくという手法が用いられました。
何枚かは白黒とカラーと対比できるようになっていますが、確かに対話が生み出される「記億の解凍」に成功したようです。凄惨な、ときにはハッとさせられるカラー写真から、何を思うのかが問われます。
戦前2、戦中6、戦後2くらいの配分ですが、やはり訴える力が最も強いのは戦争写真でしょう。ただ昭和20年ともなると、防空壕、バケツリレーによる消火、布ずきんで逃げ惑う庶民の姿より、飛行機から写した空爆写真の連続となります。
こんな強大国との戦争の被害者は兵士も市民も区別はなかった。そんな思いの強まる、必見の写真集です。迫力十分でした。
◎林美保子『ルポ 不機嫌な老人たち』(イースト新書、946円)
店頭で、車内で、図書館で、怒鳴り散らしている老人を見かけることが多くなったような気がします。高齢者が増えているためもあるにせよ、社会環境や食生活のせいも大きいのでしょう。
ホテルのスタッフを悩まし続けるわがまま常連客、パソコンに向かい続けてネット上で誹謗中傷を繰り返す老人から、マンション管理組合で理事長になり現役気取りで威張り散らす元部長まで。
ほとんどが男性ですが、中には身内の悪口を言いふらして周囲を混乱に巻き込む老女もいます。そんな実例を次々に示されると、自分だけはああはなりたくないと誰しも思うでしょう。当人だってその可能性はあります。
著者の分析によれば企業というタテ社会で実権を振り回してきた人ほど、地域社会で昔の思い出を再現したがるのだとか。寂しさこそがトラブルの原因であり、高齢者になってもなんらかの意味で働き続けることが大事だと結論しています。
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