コメの市場に機能性を持たせ業界の展望を拓く年【熊野孝文・米マーケット情報】2021年1月5日
コメ業界でも毎年明治記念館で開催される新春恒例の賀詞交歓会が早々に中止が決まり、気の抜けたような新年のスタートになった。コロナ禍で社会全体が大きく変化する中、コメ業界もその変化に対応した仕組み作りが否応なく求められる年になる。変化の中には必ずチャンスがある。チャンスを捉えるにはビジョンが必要で、今まさにコメ業界に求められているのも将来を見据えたビジョンである。そのビジョンを実現するために核になるのが「市場」である。市場に機能性を持たせることによりコメ業界の展望が拓ける。
市場の機能性とは何なのか? まず、最初に挙げられるのが「価格形成機能」である。コメの価格はいつだれがどのように決めているのか見えないのが現状で、これを自由で公平な取引市場により形成された価格が誰でも見られるようにすることが必須条件になる。市場には現物市場と先物市場の2つがあり、双方が機能することによって価格の平準化、リスクヘッジ、需給調整などといった様々な機能を持たせることが出来る。両方を同列に論じるとわかりにくくなるので、ひとつずつ分けてその機能について記したい。今回は現物市場について述べたい。
日本のコメは産地銘柄別に価格差が大きく、それぞれの産地銘柄の価格が市場で形成されるようにするには「コメの証券化と先渡し市場」が必要になる。
なぜコメを証券化しなければならないのかというと第一に市場流動性を持たせるためで、証券化することによりリスクヘッジや一般投資家への小口証券による現物供与も可能になる。農協法改正により農協も倉荷証券を発券できるようになったため現物市場で倉荷証券の売買が出来るようにする。倉荷証券を発券できない生産法人等は荷渡し指図書でも可能とする。現在、日本コメ市場等の現物売買を行っているところでも荷渡し指図書で取り引きしているが、これは一端Aと言う集荷業者がBというコメ卸に売った場合、それで取り引きが完結してしまう。それを一歩進めて倉荷証券や荷渡し指図書に裏書することによって転売が可能になるようにする。こうすることによってBという卸は自社で使用する可能性が無くなった産地銘柄米をCという卸に転売することが可能になり市場流動性が一気に高まる。
倉荷証券や荷渡し指図書はあくまでも現物が保管されていることが担保になるが、ではまだ収穫されたいない3年産米を現物取引市場での先渡し取り引きをどうするのかと言うと、もっともわかりやすい事例として政府備蓄米の入札がある。政府備蓄米の入札は今月末にも第1回目が実施されるが、応札資格者の中には過去の入札で、落札証明書を金融機関に提出し融資を受け、その資金を生産者に供与、その生産者はその年に生産するコメの営農資金に充てたところもある。
今年4月1日に株式会社化される堂島取が現物市場を立ち上げる際には、現物市場で10月に受渡しされる3年産米について確実に受渡しされるように政府備蓄米と同じことが出来るようにすればよい。それには参加資格の条件や売買規約、ノンデリ回避策等の仕組み作りが必要になるが、ここで強調しておきたいのは生産者が活用しやすくするために現物市場参加資格のハードルを低くすることである。これは急速に進む生産現場の構造変化(高齢化・担い手不足)に対応し生産者にとって最も利便性の高い市場を提供するためである。
先物市場と違い先渡し条件での取り引きでは全国どこの生産者であっても自社が生産する産地銘柄米を売ることが出来、参加会員資格に要する資金以外は必要なく、取り引きが成約した際は収穫前の新米代金の所得が確保できる。買い手の卸にとっても先渡し条件で自らが必要とする産地銘柄を事前に買い契約することによって長期的な仕入・販売計画が立てられる。さらに需給情勢によって価格が変動した場合、自ら買い契約した先渡し条件の倉荷証券を先物市場に売り繋ぐことによって価格変動のリスクにも備えられる。
コメの証券化にはもっと大きなメリットがある。それはコメ先物市場の会員社になる証券会社とコメ卸が協力して、小口のコメ証券を一般投資家に販売出来るようにする。現在ある新潟コシヒカリの小口債権e‐ワラントは現物には替えられないが、これを現物にも替えられるようにする。こうすることによって市場に備蓄機能を持たせることが出来る。
市場の機能性とはまだまだあり、最新の穀粒判別器によるコメの品位画像データ化や個別個体の識別でのトレサビリティによる売買スピードの高速化なども可能になる。それを発見し、どう生かすのかはコメに携わるすべての人に課せられた命題で、それを実現する最初の年になることを期待したい。
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