花は見られて飽きられる【花づくりの現場から 宇田明】第71回2025年10月23日
はじめて見たときには感動しても、いつも見ているとやがて飽きてくる。
それが、味や栄養といった「絶対的な価値」をもたない花の宿命です。
花は「見た目」がすべて。新しい見た目の商品を提供し続けなければ、すぐに飽きられてしまいます。
花の消費が減りつづけている一因は、この「飽き」にあります。
新しい商品が少なくなり、消費者を引きつける魅力が薄れているのです。
もともと花は、農業のなかでも特に品目数の多い分野です。
市場で流通している切り花の種類は1,000種類以上。
野菜(約200種類)や果樹(約100種類)をはるかに上回ります。
さらに、キク4,000品種、バラ1,900品種、カーネーション1,700品種など、品種数は天文学的です。
新しい品種が登場すれば古いものは淘汰される――そんな激しい新陳代謝のうえに成り立っています。
しかし近年は、多品目といいながら実際には三大品目(キク・バラ・カーネーション)への集中が進んでいます。
市場入荷量に占める三大品目のシェアは2000年の49%から2024年には55%へ上昇しました。
消費者に飽きられないためには種類の多様性が欠かせませんが、マイナー品目や新しい品目を増やすのはリスクが高く、ヒットしても短命です。
高齢化した生産者は安定を優先し、新しい挑戦を避ける傾向にあります。
こうして市場全体の画一化が進んでいます。

国産に代わって目新しさを提供しているのが輸入品です。
現在、日本には世界40か国から200属近い切り花が輸入されています。
南アフリカ産のピンクッション(Leucospermum)のような奇抜な花型や原色の花色は、強烈なインパクトを与えます。
また、日本では雑草のペンペングサ(グンバイナズナ)を、イスラエルで園芸化したタラスピは、自然風のアレンジに欠かせない存在となりました。
(雑草も商品【花づくりの現場から 宇田明】第13回)

いまや消費者に新鮮な驚きを与えているのは輸入の花といっても過言ではありません。
輸入による多様化は、花の消費減少を食い止めるために欠かせない要素です。
一方で、国内の育種力の低下が深刻です。
経済性を優先する種苗会社は採算の合わない花の育種から撤退し、品種開発の勢いが失われました。
(一社)日本種苗協会の「全日本花き品種審査会」における審査品目数は、花産業が最盛期だった1990年の17品目から、近年は5~7品目にまで減少。
2024年の審査対象は切り花でわずか4品目、鉢・苗ものを合わせても7品目です。
新品種を出しても採算が取れない――それが現実です。
こうしたなかで注目されるのが、生産者自身による育種です。
ダリア、ラナンキュラス、スイートピー、ストック、トルコギキョウなどでは、生産者育種が重要な役割を果たしています。
しかし、その多くは個人の「情熱と犠牲」に支えられており、産業としての持続性は脆弱です。
国内生産が減れば、こうした挑戦も次第に難しくなっていきます。
花の国内生産の維持・回復の鍵は、「育種」にあります。
花は見られて飽きられる――だからこそ、次の感動を生み出す力が必要です。
行政や研究機関、市場、小売が連携し、生産者の育種を支援する仕組みを整えることが急務です。
新しい品目や品種を生み出し続けることこそ、花の魅力と産業の命をつなぐ唯一の道なのです。
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