農薬:防除学習帖
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(88)ジチオカーバメート(求電子剤)【防除学習帖】第327回2025年12月6日
令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上でKPIをクリアできる方法を探っており、そのことを実現するのにはIPM防除の活用が重要だ。そこで、防除学習帖では、IPM防除資材・技術をどのように活用すれば防除効果を落とさずに化学農薬のリスク換算量を減らすことができるのか探りたいと考えている。
IPM防除では、みどり戦略対策に限らず化学的防除法以外の防除法を偏りなく組み合わせ、必要な場面では化学的防除を使用して防除効果の最大化を狙うのが基本だ。その際、農薬のリスク換算量を減らせる有効成分や使用方法を選択できればみどり戦略対策にもなるので、本稿では現在、農薬の有効成分ごとにその作用点、特性、リスク係数、防除できる病害虫草等を整理し、より効率良く防除できてリスク換算量を減らすことができる道がないかを探っている。そのため、登録農薬の有効成分ごとに、その作用機構を分類し、RACコードの順番に整理を試みている。現在FRACコード表日本版(2023年8月)に基づいて整理し紹介しているが、整理の都合上、FRACコード表と項目の並びや内容の表記方法が若干異なることをご容赦願いたい。
39.ジチオカーバメート(求電子剤)
(1)作用機構:[M]多作用点接触活性化合物
(2)作用点:多作用点接触活性
(3)グループ名:ジチオカーバメート(求電子剤)/FRACコード[M3]
(4)殺菌剤の耐性リスク:不明(ほとんど無いと考えられている)
(5)耐性菌の発生状況:無し
(6)化学グループ名/有効成分名(農薬名):
このグループには現在のところ1つの化学グループに2つの有効成分名、農薬名がある。
[1]:ジチオカーバメート/マンゼブ(ジマンダイセン、ペンコゼブ)
[2]:ジチオカーバメート/マンネブ(エムダーファー)
[3]:ジチオカーバメート/プロピネブ(アントラコール)
[4]:ジチオカーバメート/チウラム(チウラム、チオノック、トレノックス)
[5]:ジチオカーバメート/ジラム(モノドクター)
(7)グループの特性:
糸状菌(かび)の菌体内には、多くの種類のSH基(チオール基)を含む酵素(チオール酵素、システインプロテアーゼなど)が存在しており、これらの酵素によって、タンパク質の機能調節、細胞壁合成、代謝などの生命活動において重要な役割を果たしている。本グループの有効成分は、このSH基と反応することによって、SH基を含む酵素の正常な働きを阻害し、防除効果を発揮すると考えられている。本グループは、優れた保護効果を発揮して予防効果が長期に継続する上、薬害も少なく、使用も容易であることから、果樹、野菜、花卉類など多種の作物に使用されている。
(8)リスク換算係数とリスク換算量削減の考え方:
この化学グループに属する有効成分は5つあり、それぞれのリスク換算係数および基準年出荷量は、マンゼブが0.316で690トン、マンネブが0.316で81トン、プロピネブが1.000で182トン、チウラムが1.000で293トン、ジラムが1.000で386トンとリスク換算係数も高いものが多く、ジチオカーバメート剤のリスク換算量合計は1,632トンと基準年のリスク換算量合計の約7%を占める。決して少ない量ではないが、耐性菌発達の恐れがない貴重な保護殺菌剤であり、本系統が不可欠な病害も多くある。このため、本系統の削減は基本的に考えず、どうしても削減を考えなければならない場合は、他の系統の薬剤が複数ある病害など本系統の有効成分が無くとも防除が可能な場面に特化して削減を考えるようにした方が良いだろう。
(9)ジチオカーバメート(求電子剤)の農薬登録がある主要病原菌一覧
ジチオカーバメート(求電子剤)の農薬登録がある主要作物・病害名・病原菌別有効成分の一覧を次表に示した。
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