なぜ人道支援のコメ買い入れさえしないのか~「コメ余り」の一方で十分食べられない人が増えている~【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】2021年3月4日
コメ余りと言われる一方で、コメや食料を食べたくても十分に食べられない人達が増えている。米国などでは、政府が農産物を買い入れて、コロナ禍で生活が苦しくなった人々や子供たちに配給して人道支援している。なぜ、日本政府は、フードバンクや子ども食堂などを通じた人道支援のための政府買い入れさえしないのか。日本の農家のコメやその他の農産物で、国民の命を守らなくして、「自助」と言い続け、人道支援さえ拒否するというなら、政治・行政が存在する意味はなくなってしまわないか。
コメの深刻さはさらに増している~1万円米価が迫っている~
需要減がコロナ禍で増幅され、生産調整機能が緩められて作付けの抑制が効かなくなってきている影響が一気に顕在化し、コメ在庫が膨れ上がり、米価を直撃している。主食用の大幅な減産要請の中で、次に少しでも価格的に有利な備蓄用米の枠を確保するため、JA組織も安値でも入札せざるを得ない苦渋の選択を迫られた。こうした状況下で、来年のコメ農家に支払われるJAの概算金は1俵1万円を切る水準が見えてきている。1万円を下回りかねない低米価が目前に見えてきているのに、政策は手詰まり感を呈し、事態は放置されている。このままでは専業的な大規模稲作経営も潰れ、事態はさらに深刻の度合いを増すことが懸念される。
なぜ人道支援のコメ買い入れさえしないのか
米国などでは、政府が農産物を買い入れて、コロナ禍で生活が苦しくなった人々や子供たちに配給して人道支援している。なぜ、日本政府は、「政府はコメを備蓄用以上買わないと決めたのだから断固できない」と意固地に拒否して、フードバンクや子ども食堂などを通じた人道支援のための政府買い入れさえしないのか。無理やりコメを作付けするなと言っている場合ではない。メンツを保つだけのために、苦しむ国民、苦しむ農家を放置する政治・行政に存在意義があるのかが厳しく問われている。
米国では、トランプ大統領(当時)が2020年4月17日、コロ禍で打撃を受ける国内農家を支援するため、「コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法(CARES法)」などに基づき、190億ドル規模の緊急支援策を発表した。このうち160億ドルを農家への直接給付に、30億ドルを食肉・乳製品・野菜などの買上げに充てた。補助額は原則1農家当たり最大25万ドルとした。農務省は毎月、生鮮食品、乳製品、肉製品をそれぞれ約1億ドルずつ購入し、これらの調達、包装、配給では食品流通大手シスコなどと提携し、買上げた大量の農畜産物をフードバンクや教会、支援団体に提供した。
そもそも、以前にも本コラムで詳しく紹介したとおり、米国の農業予算の柱一つは消費者支援策なのである。米国の農業予算は年間1000億ドル近いが、驚くことに予算の8割近くは「栄養(Nutrition)」、その8割はSupplemental Nutrition Assistance Program (SNAP)と呼ばれる低所得者層への補助的栄養支援プログラムに使われている。なぜ、消費者の食料購入支援の政策が、農業政策の中に分類され、しかも64%も占める位置づけになっているのか。この政策の重要なポイントはそこにある。
つまり、これは、米国における最大の農業支援政策でもあるのだ。消費者の食料品の購買力を高めることによって、農産物需要が拡大され、農家の販売価格も維持できるのである。経済学的に見れば、農産物価格を低くして農家に所得補填するか、農産物価格を高く維持して消費者に購入できるように支援するか、基本的には同様の効果がある。米国は農家への所得補填の仕組みも驚異的な充実ぶりだが、消費者サイドからの支援策も充実しているのである。まさに、両面からの「至れり尽くせり」である。
これが食料を守るということだ。農業政策を意図的に農家保護政策に矮小化して批判するのは間違っている。「農は国の本なり」、農業政策は国民の命を守る真の安全保障政策である。米国の言いなりに何兆円も武器を買い増すのが安全保障ではない。いざというときに食料がなくてオスプレイをかじるのか。
コメを減産する必要はない、いや、減産してはいけないのではないか。日本国内にも、コメ余りと言われる一方で、コメや食料を食べたくても十分に食べられない人達が増えている。世界にはもっとだ。日本の農家のコメやその他の農産物で、国民、ひいては世界の人々の命を守らなくして、「自助」と言い続け、人道支援さえ拒否するというなら、政治・行政が存在する意味はなくなってしまわないか。
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