「営農型」という名の「農業潰し型」太陽光発電はいけない【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】2021年4月29日
最近、官邸などからの農地へのソーラーパネル設置圧力が強まって関係者は苦慮している。「営農型」という名目で強引にパネル設置を進めて地域農業の衰退を加速しかねない事態が懸念される。
2050年までのカーボン・ニュートラル(排出するCO2と吸収するCO2の量を同じにする)目標を追い風にして、「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」(注1)が、営農型太陽光発電(農地の上に発電装置、下で営農)を含むソーラーパネルの設置拡大を進めている。
営農型太陽光発電については、業者によっては許可時の計画通り営農しない場合も多く、現場から苦慮している声が聞かれている。こうした状況下において、それを追認するかのように、農水省は3月23日の同会合で以下の対応方針を示し、4月から実施している。(注2)
概要は以下の2点である。
(1)収量要件の撤廃
営農型太陽光発電を設置する場合、地域の平均単収の8割以上の確保が要件だったが、荒廃農地を再生利用する場合、収量要件を撤廃する。(つまり、営農してる形だけでよい。)
(2)農地転用をしやすくする荒廃農地定義の拡大
これまで、(1)生産条件が不利、(2)相当期間不耕作、(3)耕作者を確保することができず、耕作の見込みなし、の3条件が必要だった荒廃農地の転用について、「(3)耕作者を確保することができず、耕作の見込みなし」だけを満たせばよいことになり、太陽光発電装置の設置が格段に容易になる。
実質的に営農を前提にせず、むしろ、農業の衰退を促進しつつ、太陽光発電を推し進める方向性が強くなっており、「営農型太陽光発電」と呼べるのかどうか、疑問も生じる。地域農業振興と逆行し、農村コミュニティの崩壊や周辺環境の劣化にもつながらないか、十分な検証が必要ではないだろうか。
農業分野では、古くから土地改良区などが小水力発電に取り組んでいる。1年の半分(夜)は稼働できない太陽光よりも、24時間稼働できる小水力、畜産糞尿などのバイオマス発電の方が有望だとの見方もある。もちろん、宮崎県などでブルーベリー栽培の上にパネルを設置することで、強すぎる日光が緩和され、生育にもプラスになるといった形で、営農にも自然エネルギー活用にもプラスになる、本来の目的に合致した営農型太陽光発電ならば推進されてよかろう。
折しも、2030年に向け、温室効果ガスを2013年比で46%削減するという大胆な目標が4月22日に決まり、ソーラーパネル設置圧力がさらに高まることが考えられる。こうした中で、農業振興に逆行する安易な設置がやみくもに拡大されることが懸念される。そうなると、営農型太陽光発電の規制緩和が、制度の趣旨からして法的にも妥当であり、社会経済的、環境的にも、プラスの効果があるのかが、さらに厳しく問われることになる。
注1:名簿 https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/conference/energy/member2020.pdf
注2:https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/conference/energy/20210323/210323energy01.pdf
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
スーパーの米価 前週から10円上がり5kg4331円に 2週ぶりに価格上昇2025年12月19日 -
ナガエツルノゲイトウ防除、ドローンで鳥獣害対策 2025年農業技術10大ニュース(トピック1~5) 農水省2025年12月19日 -
ぶどう新品種「サニーハート」、海水から肥料原料を確保 2025年農業技術10大ニュース(トピック6~10) 農水省2025年12月19日 -
埼玉県幸手市とJA埼玉みずほ、JA全農が地域農業振興で協定締結2025年12月19日 -
国内最大級の園芸施設を設置 埼玉・幸手市で新規就農研修 全農2025年12月19日 -
【浜矩子が斬る! 日本経済】「経済関係に戦略性を持ち込むことなかれ」2025年12月19日 -
【農協時論】感性豊かに―知識プラス知恵 農的生活復権を 大日本報徳社社長 鷲山恭彦氏2025年12月19日 -
(466)なぜ多くのローカル・フードはローカリティ止まりなのか?【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年12月19日 -
福岡県産ブランドキウイフルーツ「博多甘熟娘」フェア 19日から開催 JA全農2025年12月19日 -
α世代の半数以上が農業を体験 農業は「社会の役に立つ」 JA共済連が調査結果公表2025年12月19日 -
「農・食の魅力を伝える」JAインスタコンテスト グランプリは、JAなごやとJA帯広大正2025年12月19日 -
農薬出荷数量は0.6%増、農薬出荷金額は5.5%増 2025年農薬年度出荷実績 クロップライフジャパン2025年12月19日 -
国内最多収品種「北陸193号」の収量性をさらに高めた次世代イネ系統を開発 国際農研2025年12月19日 -
酪農副産物の新たな可能性を探る「蒜山地域酪農拠点再構築コンソーシアム」設立2025年12月19日 -
有機農業セミナー第3弾「いま注目の菌根菌とその仲間たち」開催 農文協2025年12月19日 -
東京の多彩な食の魅力発信 東京都公式サイト「GO TOKYO Gourmet」公開2025年12月19日 -
岩手県滝沢市に「マルチハイブリッドシステム」世界で初めて導入 やまびこ2025年12月19日 -
「農林水産業みらいプロジェクト」2025年度助成 対象7事業を決定2025年12月19日 -
福岡市立城香中学校と恒例の「餅つき大会」開催 グリーンコープ生協ふくおか2025年12月19日 -
被災地「輪島市・珠洲市」の子どもたちへクリスマスプレゼント グリーンコープ2025年12月19日



































