コメを1日一回以上食べなくても平気な人は6割【熊野孝文・米マーケット情報】2021年9月28日
博報堂が1992年から2年ごとに調査している「生活定点調査」という消費者調査がある。
この中に「お米を1日1回以上食べないと気が済まない」と回答した人の割合が出ている。
調査を開始した1992年は71.4%の人がそう答えているが、2020年ではその割合が42.8%と過去最低を記録した。お米を食べないでも平気な人が約6割もいるという衝撃的なデータである。コメの消費について詳しく分析している公益財団法人流通経済研究所の折笠俊輔主席研究員に話を聞いてみた。
博報堂は調査結果について「『あなたの食生活にあてはまるものを教えてください。』という質問に「お米を1日に1度は食べないと気が済まない」と答えた人の割合は前回より約5ポイント下降し、2020年は42.8%となりました。今回の男女差はほとんどありません。地域差については、阪神圏の方が約4ポイント高い結果となりました。年代別に見ると、60代が49.6%で全体より約7ポイント高く、逆に20代は、全体より約9ポイント低い33.9%となりました」と記している。20才台の人は7割方がコメを食べなくても平気なわけで、もはや日本は米食民族とは言えなくなっている。この調査結果は公表されているので、ネットで年代別や男女別、地域別のデータはそちらを見て頂きたいが、もっと衝撃的なデータは流通経済研究所が総務省の家計調査を基に作成した「穀類小分類の消費金額(市場規模)の伸び率の推移」というデータで、これに2030年の予測値が出ている。2016年対比でパン、麺、コメの比率は、人口減もあっていずれも減少しているが、中でもコメは20%近い落ち込みで、まさに「コメの一人負け」状態になると予測している。コメ業界にとっては暗澹たる思いになるとしか言いようがないが、なぜこうした予測になるのか折笠主席研究員はコーホート分析と言う手法を用いて導き出したという。
コーホート分析とは分かり易く言うと「時代効果」、「年代効果」、「世代効果」の3つ効果を想定して将来予測するもの。
年代効果では、最もコメを食べるのは1939年生まれの人だという。食べ盛りの頃、戦後の食糧難時代を過ごした人たちで、コメ(ごはん)に対する思い入れが強い世代と言える。世代的には80才~90才の世代は、食事と言えば「ごはんと魚」というイメージ。その下の60才から70才世代もごはんに対する思い入れは強いが、前世代とはだいぶ様相が異なる。それを引き起こした象徴的な出来事が1972年に日本に上陸した「マクドナルド」。
マクドナルドの登場から、日本人の食の選択肢が爆発的に増えた。食シーンも、朝食では「ごはんと味噌汁」から「パンと牛乳」、今ではグラノーラと言う具合に変遷した。
単に変遷しただけではなく、折笠主席研究員は「パン業界は消費者ニーズに応えるべく絶え間なく商品開発を行って来たが、コメにはそれがなかった」と指摘する。言い換えればコメ業界は「コメを1日1回以上食べなければ気が済まない人」に頼って来たとも言える。
時代効果では、マクドナルドと同じく象徴的な年がある。その年からくっきりとコメの消費量が右肩下がりで加速して行く。その年は1995年で、平成の大凶作でコメパニックが起きた年である。この年は一俵4万円の銘柄米が当然のように取引されていた。加えてタイ米との抱き合わせ販売を強行した国の施策で一気にコメ離れが加速した。
ただし、まだ救いはある。博報堂の調査では、好きな料理を聞いた設問では、調査開始以来1位を続けているのは「寿司」。他のご飯メニューは順位を下げているが、寿司だけは不動の1位を確保している。寿司は日本だけでなく、海外でも自国以外の料理で好きなメニューとして1位を確保している国も多く、今後の輸出戦略を考える上で心強い要素になっている。
もっと心強い要素はないのか聞いてみると、世代効果では「子育て世代」のコメの消費量が多いことが分かっている。この世代のニーズに合わせたコメの商品作りが求められるという。その際にはパックご飯や冷凍米飯など手軽に食べられる商品の開発が必要になる。もう一つ上げたのは「コメの定期購入」のシステム作り。これはウォーターサービスのコメ版で、毎月好きな銘柄を選んで月3000円で購入できるようにすれば良いのではというアイデア。確かにパルシステムの予約登録米の購入者が20万人を超えるとは思えなかったが、今や同生協の柱のビジネスに育っている。
コメの価格を維持するために政府備蓄米の追加買い入れをして餌米に処理するより、民間活力を育てる政策に切り替えてコメの需要開拓を行う方が健全であるとこれらの調査結果を見ても明らかだ。
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