発足から1年を迎えるバイデン政権【ワシントン発 いまアメリカでは・伊澤岳】2022年1月7日
1月20日にバイデン政権は発足から1年を迎える。米国世論調査会社のギャラップ社によると、昨年12月時点でのバイデン大統領の支持率は43%であり、民主党支持層からは78%の支持を得ているものの、無党派層からの支持は40%、共和党支持層からの支持はわずか5%という結果となっている。
歴代大統領との支持率比較
1990年代以降に就任した大統領について、就任1年目の12月時点における支持率を参照すると、トランプ氏が36%、オバマ氏が50%、ブッシュ氏(子)が86%、クリントン氏が53%となっており、バイデン大統領の43%という支持率は近年の大統領との比較では決して高い水準とはいえないことがわかる。それどころか、更に歴史をさかのぼってみても、1953年以降、就任1年目の12月時点における支持率がバイデン大統領より低かった大統領はトランプ氏以外に存在しない。
ちなみに、バイデン大統領のこれまでの平均支持率は49%、最高支持率は就任直後および4月に記録した57%、最低支持率は10月および11月に記録した42%となっている。
貿易分野では大きな進展が見られなかった1年
貿易分野に関しては、大統領選前に策定された民主党政策綱領(党の政策方針等を示したもの)において「米国の競争力向上にかかる投資を行うまで、新たな貿易協定は結ばない」と明記されていたように、バイデン政権にとって優先順位は必ずしも高いものでは無かったといえよう。
実際に、バイデン大統領は就任後、新型コロナ対策やインフラ投資等の課題に優先的に取り組み、それぞれについて1兆ドルを超える規模の大型の経済対策を成立させているものの、貿易分野ではこのような目立った成果は上げていない。活発な動きを見せていたトランプ政権時代とは対照的な様子となっている。
上院議会幹部など一部の議員がTPPへの復帰を要望し、英国や中国、台湾などが相次いでTPPへの新規加盟申請を行ったなかで、米国は依然としてTPPに対し慎重な姿勢を取り続けており、TPP復帰に向けた具体的な動きを見せていない。
それだけでなく、貿易交渉を行う際に不可欠な大統領貿易促進権限(TPA:本来、議会が有している貿易交渉にかかる権限を大統領・政権に付与するもの)は昨年7月以降、失効したままとなっており、権限の再付与に向けた目途もたっていない。
貿易推進派の立場をとる共和党系の農業団体の貿易政策担当者は、バイデン政権の貿易分野での動きが少なすぎると半ば諦めたように愚痴をこぼしている。
農業分野では気候変動対応や競争力向上対応などで動き
一方、農業分野に関しては、前月のコラムで紹介したように気候変動対応型農業の研究や協力の推進やメタン削減に向けた取り組みを開始するなど、気候変動対応関連の施策で活発な動きを見せている。今後調整が山場を迎えるバイデン政権の看板施策「ビルドバックベター法案」にも農業に関連した気候変動対策が含まれており、この分野では今年もさらなる動きが生じることが予想される。
この他、バイデン政権での特徴的な動きとしては、競争力向上に向けた取り組みが挙げられる。年明け早々の1月3日には畜産農家らと意見交換会を開催し、支持率低下の要因の一つにもなっている物価の高騰、とりわけ食肉価格の高騰問題への対応策を発表した。具体的には、寡占化が進む食肉加工業者の競争促進策として、非大企業系の事業者による食肉加工場整備等に対する支援に10億ドルを投じることとしたほか、反競争的な商慣行等に対する苦情の申し立てを行うことが出来るシステムの開設を行うこと等を発表した。
この発表に対し、食肉加工業者の業界団体は「経済全体のインフレを民間企業のせいにしている」などとして反発を強めているが、農業団体は共和党系・民主党系双方の団体とも高く評価する声明を発表しており、農業者からの支持は得られている格好となっている。
11月には中間選挙を控えるなかで、効果的な施策を打ち出し支持率の回復につなげられるかどうか、バイデン政権・民主党にとっては試練の2年目が始まる。
伊澤 岳 (JA全中農政部国際企画課<在ワシントンD.C.>)
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【ワシントン発 いまアメリカでは・伊澤岳】
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